まさかまさかの女子艦隊出撃!
【美食倶楽部】の誕生は、大きな驚きを持って迎えられた。
何しろ、情報サイトの『リラサガ・ヘッドライン』の記事が、タラレバくん並みの注目を集めているのだから凄いでしょ?
その理由が、倶楽部リーダーが女子! しかも、女子が三人もいる!
この二点である。
私は、一応女子に入れてもらえてホッとしていたのだが、カヌレちゃんとモモンガさんは「ちゃんと女子もいるもん!」と憤慨していた。
まあ仕方がない。リラサガの女子プレイヤーは、都市伝説とまで言われてたらしいから。
加入申し込みが殺到していたが、自薦は取らないと宣言して、落ち着いた。
ただし、明らかな女子は確保するという裏文書は内緒だ。
残念ながら、まだいないみたいだけどね。
『リラサガ・ヘッドライン』を知って、へぇ……って思ったのは、普段はこちらに入ってこない同盟側の情報がわかること。
ちなみに、向こうは本気で女子プレイヤーが一人もいないらしい。
まあね、女子は大佐とかの軍階級より、伯爵とかの爵位の方が好きだから、自然とそうなってしまうんだろう。
向こうも領地(あちらは星系国家)の運営に大忙しみたい。
『もう一息で、カニさんハイウェイも繋がるな』
「いよいよ、本格的なカニさんブームの到来だね。カヌレちゃんを見習って、美味しいカニが育つ海を研究ししなくちゃ」
『まだ、こだわるのかよ……』
「タラレバくん以外も、一番美味しい海にしないとダメだもん。港を造っても、タラレバくんの漁獲は変わらないと思うから、余計に」
どんだけショウに呆れられようと、カニは私の原動力だ。
銀河一のカニの名産地も、私は目指すよ!
ポーンと、倶楽部チャットのコールがかかる。モモンガさん?
倶楽部チャットに入ると、小さなモニターにモモンガさんの顔が映る。あ、カヌレちゃんのウィンドウも開いた。男性陣は、今はログインしてないのか。
あ、このアイドルポップっぽい曲、始めて聴くよ? タイトルはなあに? ふむふむ『チャッティ・バード』って言うんだ。
ううっ……可愛い歌詞をつけて、歌いたいかも、この曲。
「みんな、今は時間取れますか?」
「暇は作るものです!」
「私も問題ないわよ?」
「じゃあ、みんなで海賊退治に行きましょう!」
モモンガさんらしからぬ提案……どした? 何があった?
モニターで見るカヌレちゃんも、びっくり顔だ。
モモンガさんはにんまりと笑って、こう言い放った。
「実は同人仲間の女子一名、このゲームに誘い込んで、さっき初期設定を終わったの! 逃がす手はないよね、カヌレちゃん?」
「お手柄です、モモンガさん! 行きましょう! 一緒に戦闘して、楽しさを教えて、フレンド登録して、ゆくゆくはクラブメンバーになってもらいましょう!」
「悪い子達だなぁ……」
手際の良すぎる二人に失笑するけど、もちろん私も異存はない。
その娘にバリア艦担当をお願いすることにして、倶楽部ハウスに集合だ。
でも、その前に個人チャットで、カヌレちゃんと内緒話を。
「ねえねえ、カヌレちゃん。バリア艦だと、あまり戦闘の楽しさわからないんじゃない?」
「ですねぇ……前もエトさんが、何もすることなく勝っちゃいましたね」
「ちょっと『演出』してみない?」
「ピンチに陥っちゃったり……します?」
「コチョコチョ……な感じで、バリア艦大活躍?」
「ミナさん、お主も悪よのぉ……です」
☆★☆
「わぁ……何だか記念すべき出陣です!」
元気いっぱいのカヌレちゃんの声が、ちょっと震えてる。
わかる、わかるよ。
いつもの『初級海賊退治』の勅令を受けての艦隊戦だけど、今日はメンバーが違う。
『リラサガ』デビューしたての、しーちゃんさんを加えて、まさかまさかの都市伝説クラスの艦隊戦が始まろうとしている。
何しろ、全員女子の艦隊だ。
SF、宇宙艦隊と、全く女子ウケしない世界観のゲームで、これは奇跡に近い。
しーちゃんさんを引き込んだ、モモンガさんが最高殊勲選手だろう。
「あ……さんをつけると面倒なので、しーちゃんでいいです」
おっとり美人さんのしーちゃんは、有名な半分プロの同人イラストレーターさんで、本職は、なんと都庁某所の窓口さんなのだとか。
思わず、今度行ってみようかと思っちゃったよ。
あのいかにも、悪の本拠地みたいなビルって、まだ行ったことがないんだ。一度行ってみたい気持ちは、前からあったし。
モモンガさん曰く、髪型も本人のまんまの、襟足で揃えたワンレンボブが色っぽい。
私よりずっと、大人びてる感じがする。
『感じどころか、比べるまでもないだろう?』
……うるさいよ、ショウ。
どうせ、お子様ですよーだ。
一応、私は元人気アイドルなんだから、美人度では負けてない……はず。
「わぁ、あのラノベの表紙や挿絵を描いてる人なんですか?」
「知っててくれて、嬉しいかな」
「みんな凄い人ばっかりで、なんか私一人普通すぎて悲しいです」
うんうん、あの本は私も知ってる。あの絵を描いた人なんだ。
余り媚びてないというか、流行りの絵柄を飛び越えちゃったような魅力のある絵だよね。
なんて感心していると……
「という事は、ミナさんも凄い人なのかな?」
あちゃ……こっちに飛び火してきた。
モモンガさんに何て答えようかと思っていたら、しーちゃんにズバリと言われた。
「たぶん……ですけど、
「……正解。まさか初対面で当てられるとは思わなかった」
「ええっ? なんで解っちゃうんですか?」
カヌレちゃんじゃないけど、私もビックリだ。
大人の女性って、みんな朝吹さん系統の魔法でも持ってるのかな?
ちょっと恥ずかしそうに、しーちゃんは種明かしをしてくれた。
「実は、ショウと美菜さんのカップルが素敵過ぎて、モデルにしてイラストを描きまくってた時期があるんです。だから、面立ちを覚えていて……さっきからドキドキしてました」
うわっ。ちょっと照れる。でも、その絵を見てみたいかも。
後でこっそりカヌレちゃんに、しーちゃんのペンネームを訊いて検索してみよう。
とはいえ……いかん、意識してしまう。
「お二人共、テレテレしてる場合じゃないです。戦闘区域に入りますよ?」
「あう……私とカヌレちゃんが左右に展開して、しーちゃんはモモンガさんを守りつつ前進でいいかな?」
「それでいいよ~。しーちゃんには移動中に戦闘のやり方を教えとく」
「お願いします。じゃ、そういうことで」
球形レーダーに海賊艦隊が映ると、私とカヌレちゃんの艦隊が左右に離れてゆく。……いつも以上の速度で。
ミスを装って、わざと遠回りして、しーちゃん艦隊の活躍場面を作るつもりなのだけど、上手くいくかな? バレると顰蹙を買いそうで怖い。
作戦タイムは、モモンガさんが艦隊戦の説明を終えるまでだ。
あっ、モモンガさんに気づかれた。
「ミナさん、カヌレちゃん……どこまで行く気ですか?」
「え? あ、ごめん。気になってしーちゃんの絵をネット検索してた!」
「あれ? すみませーん。友達のメッセージが長文だったから」
「真面目に艦対戦しようよ!」
白々しく言い訳しながら、艦隊を方向転換する。
でも、充分な距離は稼いだよ?
「ゴメン、モモンガさんが射程に入ったら、砲撃始めて。私もすぐ戻るから」
「しーちゃんは、モモンガさんを守ってあげて下さい」
モモンガ艦隊の射程は、ほぼ海賊艦のロングレンジ砲と同じ。
想定通りの砲撃戦が始まる。
しーちゃん艦隊のバリアが、敵長距離砲をシャットアウト。海賊たちは大口径砲艦隊の距離を詰める分、同行するバリア艦も前進せねばならず、バリアを張れない。
大口径砲艦隊にかなりの被害が出た。
「モモンガさん、お待たせ。まずは敵のバリア艦隊を減らすよ」
「待ってたよ、ミナさん」
「ええっ、そこから撃てるんですか?」
しーちゃんの驚きが新鮮。撃てちゃうんです、私の艦隊は。
しかも、初戦で拾った長距離センサーのお陰で、艦隊狙い撃ちもできるのよ。
次のターン、バリアを展開した敵バリア艦の側面から、集中砲火して大打撃を与えたよ。しーちゃん艦隊も、敵大口径砲艦、ロングレンジ砲艦の一斉射撃に傷つきながらも、何とか受けきる。
続くターンに、カヌレちゃん艦隊が突撃だ。
「とりゃ~ぁ!」
「うわっ、対艦ミサイル……エグい」
思わずモモンガさんが呟くほど、前回の戦闘でカヌレちゃんが拾った対艦ミサイルが、猛威を振るってるよ……。
突撃しながら、至近距離で撃つものだから、十枚セットの宝くじの末等くらいの確率で命中する。
カヌレちゃん艦隊通過後には、今度は大口径艦隊を狙った私の艦隊の砲撃と、モモンガ艦隊のロングレンジ砲ダブル。敵の数が目に見えて減ったなら、しーちゃん艦隊のバリアは、敵の砲撃をシャットアウトできる。
元々の戦力差もあって、次のターンで海賊たちを殲滅することが出来た。
……残念ながら、拾い物は無しか。
「記念すべき、オール女子艦隊の初勝利です!」
カヌレちゃんの宣言に、盛り上がる。
うん、『リラサガ』史上に残る大勝利だね。
「対艦ミサイル、凄いわ。カヌレちゃん」
「えへへ。でも、しーちゃんがモモンガさんを守ってくれなかったら、ちょっと危険だったかもでした」
「大口径砲と、ロングレンジ砲の同時攻撃にも動じなかったもん。見事だよ」
「……気を使っていただいて、ありがとうございます。楽しめました」
「あー! そう言うことなの? 二人共!」
……バレてた。
でも、おっとりと笑いながら、喜んでくれてありがとう。
もうこの時点で、しーちゃんの【美食倶楽部】加入は決まったようなものだ。
ちょうどログインしてきた、エトさんとエグさんにもちゃんと承認を取った。
「あの……少し男子も加えて良いかな? 二人だけだと、居心地が悪い」
ついでに届いたメッセージに、女性陣の答えは一つだ。
「ちゃんと、厳選してくださいね?」
☆★☆
皇帝のお城に確保した倶楽部ハウスに戻り、みんなと分かれる。
さあ、カサブランカに移動して領地に帰ろう。
なのに、どういうわけだか、直接艦には戻れず、私はお城のサロンにいた。
何で? ショウ、どうして?
『俺にもわかんねえよ……。でも、ちょっと様子が違う。プレイヤーがいないぞ?』
「え……あ、本当だ」
サロンには相変わらず人が集まっているが、頭の上に浮いているはずのプレイヤー名が、誰一人表示されていない。
それに、みんな無言で『勅令』に誘う声もない。
明らかに異常事態だ。
そんな中、こちらに近づいてくる初老の男がいる。
濃い紫色のタキシードを着た、脱いだら筋肉が凄そうな銀髪とモノクルの男。
「初めまして、ミナ女男爵。特産品が帝国内でも話題になって羨ましい限りです」
ニヤリと笑う男の頭上に、文字が浮かぶ。
【クリード子爵】
NPC……だよね?
まだゲームが正式オープンしてから日が浅くて、まだ男爵から爵位を上げたプレイヤーはいないはずだもん。
……どうしよう?
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