カニさんハイウェイと第三の女

『何を悩んでるんだ? 頭から湯気が出てるぞ?』


 地球儀ならぬ、サーフサイド儀を前に唸ってる私を、ショウがからかう。

 茶化さないでよ、真面目に悩んでるんだから。


『だから、何を悩んでるんだ?』


 だってほら、北の海でカニさんが獲れるって解ったじゃない。

 だったら、わざわざ遠洋漁業で収穫するよりは、能登や輪島みたいにカニさん獲りの漁港が有った方が便利でしょ?

 それをどこに造るかが問題なのよ。

 宇宙港からの首都の四角い大動脈の道路につなげて、美味しいカニさんを即配達できるようにしたいのだけど……間に山脈があるのよね?

 山越えハイウェイは雪が降ると心配だし、トンネルはお高い。

 最短距離で、なおかつカニさんがいっぱい獲れそうな所って、難しいのよ。


『お前は本当に……カニに関してはマジだな?』

「あたりまえでしょ! 私を誰だと思ってるのよ?」

『……天下無敵のカニ好き女。どんどん悪化してないか?』

「……自覚はある」


 惑星最大の大陸に宇宙港があるのは理に適っているのだけど、今度ばかりは裏目だ。

 この北の山脈が憎い……。

 わかるのよ、この山脈があるからこっちの方まで寒さが来ないって。それにカニの旬は冬だもん。寒い地域、冷たい海が良い。

 赤道間近のビーチの首都まで、北の海からカニを運ぶのはミッションインポッシブル。


『でも、お前……このゲームの目的、忘れてないか?』

「忘れてないよ? 私の領地の発展には、固有種を上手く利用する必要があるんだから、私がカニさんハイウェイに悩むのは必然だもん」

『まんざら外れてないから、頭痛えよ……』


 よし、勝った!

 これでじっくりと悩めます。……カニさんはどういう場所に棲んでいるんだろう?

 この間エトピリカさんに教わったんだよね、インターネットウインドウの開き方。右手を斜めに、エイっ! と、振ったら開くんだ。

 教えて、グーグル先生。タラレバくんは、きっとタラバのお友達。近くに棲んでる。

 水深三十メートルから三百六十メートルか……比較的浅め? 陸地に近い方が良いのかなぁ? 半島みたいにヒョコッと出た地形が良いかな?……この辺だな。

 うん、能登半島に似てる。半島の殆どが山だから、周りも良さげに浅そうな海。

 この半島の根本に町を造って、半島の左右両側に漁港を造れば、バッチコイ?

 町に道路を繋げば、輸送も完璧だね。私、頭良い!

 問題はそこまでの道路の、繋ぎ方だけだよ……。どうしよう?


「手強いゲームだね……こんなに頭を使うなんて、思わなかったよ……」

『本能だけで、ここまで来たのも凄えけどな?』

「難関を突破するには、エネルギーが必要なの! カニさんパワーは偉大なんだから」


 その時、メッセージが来た。カヌレちゃん?

 海賊退治のお誘いですね? エトピリカさんもいたら、道路の引き方のアドバイスをもらおうっと。先人の知恵は重要。


『考え事してるよりはミナっぽいから、行こうぜ!』


 ショウはちょっと、失礼過ぎ!


     ☆★☆


 待ち合わせは、いつもの皇帝陛下のお城のサロン。龍のオブジェの前。

 カヌレちゃん、いた。エトピリカさんもいるのはラッキー。……もう一人、誰?


「ミナさん、来てくれたぁ! タラレバガニ、美味しかったです」

「俺も食いたいよ。この時期に固有種見つけるなんて、運が良すぎ」

「あはは……カヌレちゃん、エトさん、おひさ~。エトさんには後で相談があるので、それに答えてくれたらタラレバくんをプレゼントしちゃう」


 などと軽くご挨拶しながら、残る一人を観察する。

 ニコ目の眼鏡っ娘さん。ソバージュヘアがワシャワシャしてて可愛い。女子大生か、社会人か……雰囲気が軽いから学生さんかな?

 カヌレちゃんが紹介してくれる。


「期待のルーキーのモモンガさんです。美術大学の学生さん……というよりは、コミケで有名な同人漫画家さんなんですよ?」

「そんな有名じゃないって、壁サークルじゃないし」

「でも、私が名前を知ってるくらいだから、有名ですよ? ……で、こっちがミナさん。ちょっとお姉さんな女子で、会社の社長さんです」

「ええっ! 社長さんって……」


 びっくりした目で見られちゃったよ。

 まあ、職業を訊かれればたしかにそうなるんだけど……。


「私含めて、六人くらいの零細だから。仲間内でやってる会社だよ」


 物は言いようだけど、間違ってないんだよね、これ。

 ショウのスタッフだった仲間で作った会社だもん。

 年商とか訊かれると大事になるんだけど、さすがにそこまで食いついてこない。


「今日は俺の他は女子だけで、とても居心地が悪いんだが……」

「そこは両手に花でしょ。やっと見つけた三人目の女子プレイヤーですよ?」


 剣と魔法なファンタジーならまだしも、宇宙で、領地経営で、艦隊戦な世界観の『リライトサガ・オンライン』は取っ付きづらいせいか、女子のプレイヤーが少ないんだよねぇ。

 ショウの音楽に惹かれた人が偶にいるらしいという、都市伝説レベル。

 暇な時は、皇帝陛下のお城のサロンを巡回して女子プレイヤーを探してるらしいカヌレちゃんが、「とりゃあ!」とばかりに一本釣りしたのが、モモンガさんなのだとか。

 昔はネカマさんとかいたらしいけど、今は法律で基本はリアル世界と同じ顔のキャラクターを使用することになっているから、LGBTの方はいても女の子はわかりやすい。

 本当に良く見つけたよ、カヌレちゃん。


「モモンガさんの艦は、どんな装備なの?」

「私の旗艦は『クリークスター』で、ロングレンジ砲だよ」

「ミナさんと被ったけど、それなら良いね。シールド艦ならどうしようかと思った」

「エトさんと二人で、シールド張りまくったり」

「それだと攻撃力に欠けちゃうから、そっちに被って良かった」


 ちなみに、エトピリカさんの旗艦は『アカショウビン』だって。鳥さん繋がりだね。真紅のカワセミみたいな鳥で、天然記念物なんだよ。

 何で知ってるかと言うと、西表島に旅行に行った時、ショウが絶対に探すと言ってた鳥だから。ちゃんと見つけて、一緒に双眼鏡で見たんだ。ウチに写真もあるの。


 艦隊移動はさすがの壮観さで、初めてのモモンガさんは感動してた。

 今日はエトさん、その後ろに並んで私と、カヌレちゃん。最後尾がモモンガさんという隊列だよ。

 私とカヌレちゃんが左右に展開して、射程が長い上に長距離センサーで正確な射撃ができる私が、最初に攻撃。こちら向きにシールドが張られたら、それを避ける角度からモモンガさんが砲撃。後は撃ちまくって、崩れ始めたら、カヌレちゃんが突撃して止めを刺す。

 そういう作戦だけど、上手くいくかな?


「凄い……モモンガさんの星は、ファッションシティを目指してるんですね!」

「アキバを目指そうかと思ったけど、アニメや漫画の産業を興すの難しそうなんで、ファッションからコスプレ方面に行こうかと」

「オタク文化は興せるのかなあ? エトさん、わかる?」

「無茶言うな。ベータテストの時も、そこまでやった奴はいない」

「面白いから、ぜひ応援したいかも」

「また、ミナさんは無責任に応援しますね」

「いいわよ。私はこの獣道を突っ走る~」


 おお、逞しい人だ。

 ついででいいから、誰か音楽産業を興して欲しいかも。

 そんな世間話をしている内に、戦場に到着。球形レーダーを確認しつつ、ミナ艦隊とカヌレ艦隊は、それぞれ大きく左右に移動する。


「エトさん。こっちは射程に入ったけど、そっちはどう?」

「相変わらず、射程が凄いな……。あと二ターンの移動でモモンガさんも射程に捉える」

「どうして、そんな距離から撃てるの?」

「お金に糸目をつけなかったからだよ。じゃあ、もうワンターン待つね」


 打ち合わせ通りに待ってから、ミナ艦隊、ファイア! ムフッ、相変わらずの先制で二十三パーセント破壊したよ!

 あとは、私は連続砲撃するだけ。

 ミナ艦隊の砲撃を避けようと、こちらに向けて海賊はシールドを張る。そのシールドを避けるような角度から、今度はモモンガ艦隊も撃つよ。


「モモンガさん、凄い。そっちも十五パーセント撃破だよ」

「ミナさんが引き付けてくれたおかげ!」


 二方面からの砲撃に、海賊たちは後退して、両方をシールドで守れる位置へと移動する。

 でも、甘いね。

 そこにカヌレ機動艦隊が襲いかかった。

 完全に蹂躙され尽くした海賊たちは、白旗を上げて投降してきたよ。ワンターンキルってやつ?


「俺は何もしてなかった件……」


 エトさんの呆れ顔に、ドッとみんなで笑い転げた。

 戦利品として、カヌレちゃんが対艦ミサイルポッドを回収したって、おめでとう!

 突撃して、敵の真ん中で撃ちまくるといいよ!


 帰りにエトさんに相談した結果、何もバカっ正直に真っ直ぐな道を造る必要もないだろうと、教えてもらった。

 山の形に合わせて、低い所をうねうねと道を這わせて、どうしようもない所だけ、トンネルを掘ればいいんじゃないかと。

 目からウロコだよ……そっか、道は真っ直ぐでなくてもいいんだ。

 お礼にレバタラくんを差し上げました。

 美味しく食べてね。

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