初めての艦隊戦
「わぁ、凄い。もう、ちょっとしたグルメタウンだよ」
ぐんと成長したビーチの町並みを眺めて、私はご満悦だ。
ソファにふんぞり返り、ローテーブルに足を乗せたショウは、エグザムビールの缶を煽りつつも、褒めてくれる。
ショウ好みの、軽くて切れのあるビールを造ってくれて、ありがとうエグザムさん。
『順調に育ってるな。……でも、こうなるとウチでも特産の酒を作ってみたくならないか?』
「いいねぇ……。収入も増えてきたし、農地くらいは作れるよ」
『農地を作るなら、宇宙港の北側だな』
「そっちはまだ未開発だもんね。……何が良いかな? ワインやビールの軽いお酒は充実してるから、蒸留酒が欲しい?」
『できるだけマイナーな種類の方が、ライバルが少なそうだ』
「ウィスキー、バーボン、ウオッカ、ラム……アクアビットなら、ライバルいなさそう?」
『またマニアックなのを……アクアビットの主原料はじゃがいもだっけ?』
「よし、じゃがいも畑と麦畑、香草畑を作ろう! 塩田から人員を二割引いて、畑と醸造に一割づつ?」
『ついでに、ポテチも作ろうぜ!』
「グルメタウン化が止まらないよ!」
宇宙港からビーチ、ビーチから左右に分かれて、港と塩田に向かっていた道路を北に伸ばして畑と、蒸溜所を繋いで大きな四角い道路を敷いておく。
ウチの領地の首都の大動脈になってね。
ウキウキと眺めていたら、なんかメッセージが届いた。
カヌレさんから?
『初めまして。もしお時間があるようでしたら、一緒の宇宙海賊退治に行きませんか?
初級の勅令だし、四人チームで行くので圧勝できるはず。
お話もしてみたいので、ご一緒して下さい』
えっと……宇宙海賊退治って艦隊戦だよね?
私にできるのかな?
『だいたい十五分もあれば終わるだろう。時間は大丈夫か、ミナ?』
「時間は充分だけど……初めての人だし、やったこと無いし……」
『じゃあ、背中を押してやろう。【勅令】での移動時と艦隊戦の時は、当然その場面に応じた曲が流れるんだぜ?』
「その言い方はずるいよ! 参加せずにはいられないじゃん……」
参加の返事を送ると、皇帝陛下のお城のサロンの、龍のモニュメントの前に集合と返事が貰えた。
うわぁ……初めて逢う人と、初めての艦隊戦だよぉ。
『待てこら、何の改造も無いスッピンの艦隊で行くと笑われるぞ』
「え……でもそんなにお金はないよ?」
『安心しろ、そのくらいは【勅令】の報奨金で稼げる』
「そんなに儲かるの?」
『仮にも皇帝陛下の【勅令】だからな。……ほらここだ。どんな艦隊にする?』
「ちゃんと説明してよ、この曲含めて」
『曲は『ザ・ワークス』工場とかの生産検討にかかる曲だよ。
艦隊は、好みで特徴を出せる。機動力で一撃離脱を繰り返す艦隊や、シールド強化でみんなの盾になる艦隊。強力な砲で力押しする艦隊や、長い射程で遠くから狙い撃ちする艦隊……色々だ』
「遠くから狙い撃ちがいいな。他の人の邪魔にならなそうだし……」
『消極的な奴。アイドル時代の負けん気はどうした?』
「自信があるなら、グイグイ行くけど……初めての事に強気になれないよ?」
『まあ、そうか……。じゃあ、ロングレンジ砲を組み込もう。どれがいい?』
「奮発して、一.八倍」
『それはさすがに報奨でも足が出るが、ミナがそうしたいならいいか』
ショウの口振りだと、かなりのオーバースペックになりそうなロングレンジ砲を積んで、カサブランカを旗艦とするミナ女男爵艦隊で首都星に向かう。
約束通りの龍のモニュメントの前に、カヌレさんはいた。
名前に合わせたのか、ブラウンのドレスを纏った小柄な女の子だ。高校生くらい?
「初めまして、ミナです」
「わぁ、初めましてカヌレです。ミナさんのサーフサイド貝、美味しすぎですよ! ウチのミルクで作ったクリームで煮ると、もう堪らないくらい!」
「それはまだ試してないけど、美味しそう! ウチの星はもうグルメロードをまっしぐらです! お肉と魚が揃ったから、ワイン選んでビール選んで……レストランが急成長」
「ううっ……ウチのレストランが成長しないのは、お酒が無いせいかなぁ。私も真似したいので、後でどんなお酒を置いてるのか教えてください」
「私の好みで良ければ」
って、何で普通に会話してるの、私?
人見知りは、どこ行った? 美味しいもの好きは、通じるものがありすぎるのか?
一発で波長の合ったカヌレさんと、年の差も忘れて盛り上がっちゃう。
そんな様子を呆れて見ているのは、二人の大学生くらいの男子。
「エトピリカです、よろしく」
「俺は初めてとは言えないな。……毎度、ビールのご愛顧ありがとうございます。エグザムです」
ひょろっとノッポさんがエトピリカさんで、ぽっちゃり系がエグザムさん。わお、ショウが愛飲してるビールの醸造者さんなんだ!
「カヌ、今日も初級の海賊退治で良いんだよな?」
「初めてのメンバーだから。戦力は四倍だし、楽勝でしょ。エトさんのシールド艦隊アテにしてるから」
「カヌは機動艦隊、エトはシールド、俺は高火力……ミナさんの所はどういう艦隊?」
「ウチはさっき、ロングレンジ砲を付けた」
「あはは……申し合わせたみたいにバランスが良いね。じゃあ、エトさん、エグさん、ミナさん、私の隊列で良いね」
「勝手に先走らないでな、カヌ」
ぽやんとしている間に、どんどん話が決まっていく。
気がついたら、宇宙港を出発していた。この曲は『スターロード』……勇ましいぞ。
いつもの単艦表示でなく、四人分の艦隊がずらりと並んで星の海を行く姿は壮大だ。白いのが私の艦隊。赤がエトピリカさん。緑がエグザムさんで、茶色がカヌレさん。時間があったら、それぞれの旗艦の名前も教えて欲しいぞ。
「すみません……実は私、艦隊戦は初めてなんだけど、どうすればいいの?」
ちょっと情けないけど、正直に申告。
笑われるかな? と思ったけど、気軽に教えてくれたよ。
「戦闘が始まると、ターンっていうタイミングがあるから、その時に一人一人『砲撃』とか、『回避』とか命令を入れて、全員が入力すると、自動的に敵味方が行動するんだ。その結果で次のターンに進んだり、降伏勧告をしたりして勝敗を決める」
「入力する時に、みんなで話し合えるから、最初はその結果で命令すると足並みが揃う」
「あっ。ミナさんのはロングレンジ砲だから、みんなより先に撃てる様になるの。【射程範囲内】の表示が出たら、教えてね。先制攻撃のチャンスだもん」
何となく、わかったような気がする。
とにかく入力時は勝手な判断をせずに、みんなの指示に従って入力すればいいや。あとは【射程範囲内】に入ったら、申告して砲撃する……と。
『まあ、友軍の指示を聞いて動けば、迷惑はかけないだろう?』
「ショウの好きなビールの醸造者さんもいるからね、嫌われないようにしなきゃ」
『良い心がけだ』
ふふん……ショウと一緒だから、負ける気はしないよ!
でも、宇宙空間には上下左右が無いのに、なんでみんな海の上みたいに同じ方向を向いているんだろう? 謎だ……。
『また、馬鹿なこと考えてる。上下左右がないからこそ、意識的に方向を決めないと、団体行動ができないだろう? みんな同じ方向を向いていれば、右は右、左は左と同じ向きで動けるようになるんだって』
なるほどぉ……納得した。
大きく頷いた途端に音楽が変わった。
イェ~イ! ノリノリのハードロックだぜぃ!
『戦場に着いたぞ、気を抜くな。曲名は当然『バトルフィールド』だ』
球形センサーに敵の位置が表示される。まだ艦の姿は見えないけどね。
戦闘リーダーのエトピリカさんの声が飛ぶ。
「接敵するまでは、最短で突っ込むぞ」
「良いぜ、さっさと済ませよう」
「ミナさん、射程に入ったら宣言ですよ?」
「頑張る!」
レーダー上では、じわじわと接近してるよ。
突然、【射程範囲内】の表示とチャイムが鳴ってビビった。
「ミナ艦隊、射程に入ったぁ!」
「ええっ! もう?」
「どんだけ、ロングレンジなんだ……」
「撃っちゃって下さい!」
「撃つ~!」
ウインドウが開いて、カサブランカの全景が見える。そしてビームがドーン!
艦の震えが伝わってくるのは、さすがVR。
星の海に吸い込まれてゆくビームの光条……やがて、超新星の煌めきが。
「完全に虚を突いたな。敵戦力二十パーセント減」
「この距離じゃまだ、シールドも張ってないだろ?」
「私も突撃したい!」
「う~ん……。ミナさんはここで停止して、連射して下さい。俺とエグはとにかく前進しないと話にならない。カヌはもう行け! ただし、迂回しつつ退路を断つ形で」
「「「了解!」」」
次のターンも、良いのかなぁと思いつつ砲撃だ。さすがに今度はシールドを張ったらしく、被害は微々たるもの。でも、それで海賊の足が止まったみたい。
みんな一気に距離を詰めた。
私は単純に撃ち続ける。エトピリカさんのシールドの陰から、エグザムさんの大口径ビームが炸裂。シールドを突っ切って、海賊にダメージを与える。そこに追い打ちをかけるように、斜め上からカヌレ艦隊が突っ込む。
それを二ターンほど繰り返せば、もう海賊の姿はない。
このおめでとうのファンファーレも一曲だよね?
あ……【長距離センサー】を回収できたって。らっきー。後で付けよう。
「ここまで圧勝できるとは、思わなかったよぉ!」
「これだけ縦横無尽できれば、カヌも満足だろ?」
「被害はほぼゼロだし!」
「ミナさんのロングレンジ砲が長距離過ぎる。どれだけ資金をかけたのか……」
「つい勢いで……」
「良いよ良いよ。強力な武器だもん」
「この艦隊構成はベストかも。また今度一緒にやりたいね」
「ミナさん、フレンド登録良いですか?」
ミナ女男爵の初陣は、圧勝で終わって、フレンドが三人も増えるという大戦果でした。
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