幕間 あるメイドの独白
私が“ジル”としてルーデンドルフ家に仕えてからもう5年になる。
ルイス様のお守り役をなかば強引に押し付けられ、正直最初はうんざりしていた。
わがままで、性格が悪く、意地汚い。
子供相手に向ける感情としては良くないが、はっきり言えば最悪の子供だと思っていた。
きっと将来は傲慢な悪徳貴族になるんだろうなと容易に想像できた。
そんな彼が変わったのは、もう一年も前の事だ。
ある日突然急に人が変わったように性格が穏やかになり、聡明で人当たりのいい少年になっていた。
私は驚くと同時に、喜びと安心でほっと胸をなでおろした。
だってそうでしょう?
ルイス様は男爵家の息子とはいえ三男。
領地は継げず、少量のお金と共に王都で騎士になるしか道はない。
ああ、あと冒険者という手もあるにはあるけど……。
どちらにせよ、こんな性格ではとてもまともに生きてはいけないだろうと心の底から心配していた。
4年も仕えればどんな相手でも愛着は沸くものだ。
何が原因なのかはよくわからない。
カズハ様やティロ様との交流が良い方に進んだのでしょうか?
ただ、困ったことに剣や魔術への興味は今でも殆どない。
身一つで生きていかなければいけないのにこんな事では……。
それでも、一か月前まではそれでいいと思っていた。
ティロ様が支えればどんな武功でも立て放題だ。
私も微力ではあるけれど力を貸せる。
今のルイス様の接し方であればティロ様が去ることはないと、そう思っていた。
……それなのに、ティロ様は死んでしまった。
王室からのケーキに毒が入っているなんて誰だって想像できないだろう。
だから仕方ない。私は悪くない。
悪いのは犯人で、私は無関係。
……そう考えられるほど図太い人間ならどれだけよかっただろう。
悔やんでも悔やみきれない。
私の注意不足で、主の一番の騎士を殺害してしまった。
この事実は一生消えることはない。
私はどうすればいいんだろうか。
このままお仕えしていいんだろうか。
きっとルイス様も私を恨んでいるに違いない。
そう思って、ティロ様が死んでから今日まで過ごしてきた。
奴隷を買うと言った時、最初私は捨てられるんだと覚悟した。
きっと私の代わりに見た目が好みで有能な側仕えが欲しくてそういうことを仰るんだろうと疑ってしまった。
でもルイス様は違った。
こんな私を今でも“仲間“と呼んでいただいた。
ならば私は、報いなければならない。
例え私が殺されることになろうと、どんなことがあっても必ずルイス様をお守りする。
ティロ様の代わりに……。
これが私の、これから死ぬまでの唯一の生きる意味だ。
そのためならばなんだってする。
本当に、どんなことでも出来る覚悟が出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます