第7話 私兵団

 朝の陽ざしを浴びながら、慣れ親しんだ小さな道場へとやってきた。

 ティロの件以降、一度も訪れてなかったのもあってなんとなく入りにくい。


「入らない……ですか?」


「ノアはたまに変な言葉遣いになるよな」


「うっ、ごめんなさぃ」


 頭を抱え顔を赤くしている。

 うーん、かわいいな。


「ほら、入るよ」


 意を決して、道場に入る。

 ほんの少し汗の饐えた匂いがする室内には、カズハと……もう一人若い男がいた。

 

「いいか? こうやって刀をだな……」


「お、おう……」


 随分と熱中して教えているようで、二人の距離は割と近い。

 男の方は余り集中できていないように見える。

 ……というより、別の物(主にカズハの身体)に夢中って感じだ。


「お取込み中のところ悪いが、ちょっといいかな」


 二人とも気づいていないようなので、仕方なく声をかける。

 邪魔したら悪いけど、許してほしい。


「ん?……ルイス! 久しぶり……えっと、もう大丈夫?」


 声をかけると、カズハは一直線に俺の方まで駆け寄って心配そうに手を握ってくる。

 やや汗ばんでいて、温かい。


「うん、もう大丈夫。カズハも元気そうでよかった」


「私は……うん、私も落ち込んだけど、でも……」


「でも?」


「ティロが居なくなったなら、私があなたを守らないといけないもの」


 そう言って、手に力を籠めてくる。

 痛いくらいだ。


「頼りにしてる」


「……うんっ!」


 強張った表情に笑みが浮かぶ。

 実際、カズハにも力になってもらわないと困る。

 そしてそれは、ここにいるもう一人の男も同じだ。


「ラグナ―も、元気そうでよかったよ」


「元気に楽しくやってたよ……特にさっきまでは」


 不機嫌そうに顔を歪ませながら俺たちの様子を見ている男。

 ラグナー・ブルメスター。

 原作ではルイス配下の騎士で、ティロのせいで目立たないがそこそこ強キャラだ。

 こいつは同い年のカズハに恋心を抱いていて、そのせいで原作ではやや対立している。

 結果、本来はルイスに邪魔されてまともに剣を学べていない、純粋に才能だけで戦っていたキャラだ。


 つまり、このまま道場で修行すればもしかしたらすさまじく強くなってくれるかもしれないわけだ。


「まあまあ、そう怒るなよ」


「うるせぇっ」


 カズハとの逢瀬を邪魔されてだいぶ怒ってるみたいだ。


「今度飯を奢ってやるよ」


「肉なら手を打ってやる」


「じゃあついでに狩りにいこうぜ」


「お、ありだな」


「よし、決まりだ」


 ようやくラグナーの機嫌も直ったみたいだ。

 こいつはこの領内で唯一気兼ねなく話せる友人でもあるからな、色恋で失いたくない。


「ラグナー、あなたルイスになんて態度とってるのよ……」


「いいだろ、どうせこいつは三男だから俺たちと同じ下級騎士になるんだからよ」


 ラグナーは下級騎士の息子だ。

 本来なら身分の差があるんだが、曰く「どうせ将来同僚になるなら今から仲良くやってもいいだろ」ってことらしく、フランクに接してくる。


 他のやつらは多かれ少なかれ気を使って接してくるから、同性の友人として実に貴重な存在だ。

 

「だからって……」


「いいよいいよ、そんな事より二人に頼みがあるんだ」


「頼み?」


 ティロを失った代わりに得た戦力はノアだけ。

 正直、今のノアだけではまだ少し心もとない。

 だから、もう一つ策を用意した。


「俺たちで私兵団を作らないか?」


「……は?」


 二人が呆けたような顔をする。

 俺が考えた策、いやまあ策と言えるようなものでもないが……。

 兎に角今の俺には金と力が必要だ。

 それを一気に得るための秘策、それがこの私兵団だ。

 

 私兵団とは、ようはマフィアだ。

 金で人を集め、その力で更に金を稼ぎ、支配する。


「お金はどうするの? 人を集めるのには莫大な……」


「最初は俺とジル、ラグナーとカズハ、そしてこの……」


 俺はノアに目を配る。


「この子、ノアの合計五人で結成しようぜ」


「えーっと、うん。まず、その子はだれ?」


「ノアだ、ほら挨拶して」


 俺の横にへばりついてぷるぷる震えているノアの肩をたたく。


「あ、えっと、ノア……です。ルイスの性奴隷です」


「は?????」


 カズハの目が一気に暗くなり、声が低くなる。

 怖いっ、怖いよ!!


「いや違う違う! 確かに性奴隷として売ってたけど、あくまで家族として!」


「家族として、好みの女を買ったと……」


 ラグナーが口をはさむ。

 こいつ、ここぞとばかりに!!


「違うんだよ、これには事情がだな……!」


「別に、あなたが不健全な目的で不健全な女を買おうと私は一切関係ないから構わないわ? ええ、ティロが居なくなってさぞ寂しかったんでしょうし?」


 そう言ってはいるものの、声はどんどん低くなり、俺の右手を握る手にも力がこもっていく。

 

「と、兎に角! この五人で私兵団を結成したいんだよ」


「目的は?」


「……この街の裏社会を支配して、俺が次の領主になること」


「……へぇ」


「ルイス!?」


 ラグナーはにやりと笑みを浮かべ、カズハは曇っていた目に光がともる。

 方針は決まった、後は突き進むだけだ。



 ―――――


 読んでいただきありがとうございます。

 ようやく物語が動き出した感じです。

 続きが読みたいという方はぜひぜひ★とブクマ、そしてなによりコメントをお願い致します! 

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