第6話 運命共同体

 ジルのパンツを見た後不機嫌なジルを宥めながら色々と試した結果、ノアの能力についてわかった事はいくつかある。

 1つ、手のひらの数字は能力を使用するごとに減少していく。

 2つ、減少値は固定ではなく、恐らくは起きた事象の大きさによって上下する。

 3つ、相手を不幸にすることも可能。その際は自分の運が減る。

 4つ、手のひらの数字は何か不幸な事が起こると増える。

 

 総評、使い方を選べばめちゃくちゃ強い。


 ただし今のところは万能とは言えない。

 もっと研究してここぞという場面で使ってもらうとしよう。

 恐らく今は能力のほんの一部が使えているに過ぎない。

  

 ゲームでのノアはそれはもう圧倒的だった。

 きっかけさえあれば、その領域に至ることも可能だろう。


「ご主人様、まだためしますか?」


「ご主人様じゃなくてルイスで良いって言っただろう?」


「あっ……ごめんなさい、る……ルイス」


 俺は隣に立つノアの頭を撫でる。

 後ろで俺たちを見張るこわーいメイドに性奴隷目的ではないぞ!友達として買ったんだぞ!と、必死にアピールする。


 なんかこっちを見る目がすっごく怖い。

これは多分、伝わってないな……。


「ルイス、まだ続ける……ます?」


「敬語も……まあいいか」

 

 敬語とため口が混ざった謎言語がかわいいからしばらくはこのままにしておこう。

 能力の研究は……小一時間ほど部屋の中で色々と試してみたし、取り敢えず今日はこれでいいや。


「終わりましたか?」


「うん、終わったよ」


「そうですか、お風呂の準備は既にできております。……一時間前から」


 そう言えば風呂の準備させてたんだった……。

 だから睨まれてたのか。


「ごめんジル、埋め合わせはするよ」


「謝ったので今日は良しとします」


 そう言ってほんの少しだけ口を緩ませる。

 どうやら許してくれたみたいだ。


「ありがとう。ほらノア、お風呂に入って来な」


「……わかり、ましたっ」


 ノアが肩を震わせ緊張したように返事をする。

 どうしたんだろう、お風呂嫌いなのかな?


「お風呂は嫌いか?」


「嫌いじゃないですっ! がんばってきれいにして、えっと、がんばりますっ! だから……」


 そのまま下を向いて黙り込む。

 な、なんだ?

 トラウマでもあるんだろうか……?


「だから、やさしくおねがいします……!」


「やさしくって……? ああ、そういうことか!」


 ノアはお風呂の“先”の行為を想像したのか。

 10歳の子がそんな覚悟を決めるって、なんだか世知辛い世界だなぁ。


「そういうことはしないから、ゆっくり体を温めてきな。戻ってきたらご飯にしような」


「えぇ……?」


 ノアが信じられないといった顔をする。

 ジルはまだ半信半疑って感じだ。


「ほらノアさん、行きますよ」


 ジルがノアの手を引きながら風呂へと向かっていく。

 さて、後は温かい飯でも食わしてやるか。


 別に正義のヒーローになるつもりはないけど、目の前にいる少女くらいは幸せにしたって罰は当たらんだろう。

 守ってもらわないといけないしな。

 そのためには、ただの奴隷と主人以上の関係にならないと……。


――

―――

――――

 六人掛けの縦長の机の上に夕飯が並べられる。

 パンにスープ、それに少量の肉がならんでいて、貴族の食事にしてはやや質素だ。


「おいしいですっ!」


 一口食べたノアが心底嬉しそうな声を上げる。

 どうせならと、俺はノアとそれからジルも一緒に食卓を囲んで晩御飯を食べている。

 ジルは最初一緒に食べるわけには行かない、と拒否していたが頼み込んでしぶしぶ了承してくれた。

 

 うんうん、これだよこれ。

 異世界転生と言えば奴隷の少女に温かい飯と綺麗な服を与えて喜ばせる。

 これ、鉄板だよね。


「奴隷やメイドと食事をとるなど領主の子供として……」


「いいじゃないか、どうせ三男でもらえる領地もないんだし」


「そ、それは……」


 俺は男爵家の息子とはいえ三男。

 残念ながら通常であれば成人と共に家を出て騎士として一兵卒になる身だ。

 現に、上の兄二人とは違い屋敷の離れで暮らしている始末だ。

 だからこの食堂も本邸に比べれば相当狭く、簡素で食材の質も低い。

 ちなみに料理や家事の全てはジルがやってくれているらしい、ありがたいね。


 ルイス・ルーデンドルフはこの時点ではルーデンドルフ家の予備の予備に過ぎないのだ。

 自由にできる部下もジルしかいない。

 

 だから俺は、仲間を集めないといけない。

 誰が来ても迎え撃てる強力な仲間たちを。


 そのためには、仲間たちの結束も不可欠だ。


「俺たちは仲間だ。運命共同体だ。だから……これからも食事は三人でとろうか」


「……かしこまりました」


「うん!」


 衣食住を共にすれば少しは仲良くもなれるだろう。

 一人で食事をするのは寂しいしな。

 

 だけど、まだ足りない。

 俺たち三人が結束するだけじゃまだまだ脅威には勝てないだろう。


 なにせ相手は王室関係者、もっと仲間を集めて、俺自身も強くならないといけない。

 そのための秘策は……考えてはいる。



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