第2話 毒入りケーキ
ティロの死から一ヶ月が経った。
様々な調査の結果、どうやらケーキに含まれていた毒が原因だったようだ。
そう、毒だ。
今回の事件は明確な殺意を持って俺を殺しに来ていた。
王室から送られてきたケーキに毒が入っているなんてあまりにも異常事態だ。
そもそも王室関係者と会話した事すらないのになんで殺されないといけないんだ?
動機が分からん……。
「ルイス様、調子はいかがですか?」
自室で寝ころびながらティロの死について考えていると、ジルが俺を起こしにやってきた。
ベッドで寝ている俺を心配そうに見下ろしている。
もう昼に近い時間らしい。
最近はいつもの朝稽古はさぼり気味だ。
そういう気分にはなれない。
というか、出来るだけティロの気配を感じる場所にいたくないのが本音だ。
「んー、ぼちぼちだよ」
「お食事はどうなさいますか?」
「あー、食べるよ」
「かしこまりました」
事件の後最初の一週間は殆ど食事もとれず、ジルが無理矢理口の中に運んで来ていた。
彼女なりに責任を感じているんだろう。
正直いうと、最初はジルも犯人候補に入れていた。
だってそうだろう?
ケーキを出したのはジルだ。
なら毒を混ぜるのもたやすいだろう。
だけどジルならもっと簡単に殺せるだろうし、何より毒殺は余りにもジルが怪しすぎる。
少し考えればリスクが高すぎることに気づくだろう。
だから取り敢えず今はジルは疑わないことにしている。
「結局、あのケーキは誰が送ってきたのかわかった?」
「残念ながら……。送り元が王室であることしか……」
「父様はなんて?」
「事態を大きくするなと……」
「そうだよねぇ……」
犯人が未だにわからない一番の原因はこれだ。
王室から送られてきたケーキに毒が入ってきた、なんて訴えれば国家への侮辱に等しい。
そんな事、たとえ事実でも出来ない。
ましてや騎士が死んだだけなら言わずもがなだ。
だから今回の件は裏で調査を進めるだけで、公にはなっていない。
実に悔しくてムカつく話だ。
「なあジル、どっかに強い騎士はいないかな」
「ティロ様の代わりになるほどのお方は……」
目下の一番の課題はここだ。
ティロの代わりの護衛が居ない。
ジルも実はかなり強く、重力魔術の使い手としてそれなりに以上に戦えるんだが。
如何せん、ティロの代わりとなると話は別だ。
ティロは作中最強のキャラで、だからこそ俺は命を保証されていた。
だがそれも今となってはいつどこで誰に殺されてもおかしくない。
ましてや間違いなく、俺を殺そうとしている人間が存在している現状ではおちおち寝てもいられない。
俺は、ティロの復讐を遂げるまでは必ず生き残らないといけない。
ただまあ一応、解決策は考えてある。
「そう言えばそろそろ外出許可って出た?」
ティロの件以降、俺は屋敷の外に出るのを禁じられていた。
色々と理由はあるが、一番は俺の身を守るためだ。
暗殺者が居るのは確かだし、父様も警戒していたんだろう。
「そうでした、それを伝えに来たんです」
「お、てことは?」
「外出許可、取れました。護衛に私が必ず付くことが前提ですが」
「やったー!」
「ふふ、よかったですねっ」
ジルが微笑みながら俺を見つめる。
うんうん、これでようやく護衛の件はなんとかなりそうだ……。
「早速外に出ようか」
「かしこまりました、ではカズハ様もお連れして三人でピクニックにでも……」
「あ、いや二人で行こう」
「二人で、ですか……?」
これから行く場所はカズハにはちょっと早い。
できれば一人で行きたい位だ。
「駄目かな?」
「いえ、駄目ではありませんが……。私と二人より同年代の方がいらっしゃったほうが楽しめるかと……」
「まあまあ、いいからいいから」
「そうですか……?」
ジルが怪訝な顔で首をかしげる。
小さな声で「年上趣味なのかしら……」などと言っている気がするが取り敢えず聞こえなかったことにしよう。
「では、今日のお昼をお弁当箱に詰めてきますね」
「あー、いや……。今日はピクニックじゃなくて行く場所を決めてるんだ
かわいいメイドとのピクニックデートも捨てがたいが、今回は我慢だ
「どちらまで?」
ジルが銀髪を揺らし首をかしげる。。
「奴隷市場」
ジルの顔が一気に歪んでいくのが見えた。
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