悪役貴族に転生した俺の命を狙う奴らをわからせるために、裏ボスを奴隷にして迎え撃とうと思う
春いろは
第1話 絶対生き延びる悪役貴族・・・?
俺がゲームの世界に転生したことに気づいたのは、もう1年も前の事だ。
“アルド戦記“
元はエロゲだが、漫画やラノベに引けを取らないほどの人気を獲得し遂にはアニメ化もして大成功を収めたオタクなら誰でも知ってる名作中の名作。
主人公アルドの王権闘争を中心にした戦記物だ。
そんなアルド戦記で読者に一番嫌われているキャラは誰かと問われれば、間違いなく一人に絞られる。
ルイス・ルーデンドルフ。
すべてのルートにおいて悉く主人公を裏切り続け、そしてすべてのルートで生き残り続けた最低最悪のヴィラン。
黒い噂がいくつもある典型的な“悪役貴族”だ。
気が付いてからの話を総合すると、どうやら俺はそんな最低最悪のヘイトキャラに転生したらしい。
ちなみに、歳は10歳。
本編開始時の年齢はゲーム的な都合で不明だけど、多分16歳くらいだからまだまだ時間はある。
本編が始まれば様々な危機が押し寄せて来るだろう。
でもまあ、正直俺はかなりのほほーんと暮らしている。
なぜかって?
それはな……。
「ルイス! 早く起きて道場に行こうよ!」
部屋の扉が開き、短髪の元気な女の子が入って来る。
ベッドとわずかな家具しかない、貴族にしては質素な部屋に活気が生まれるのはありがたいんだが、早朝にしては騒がしすぎる。
「相変わらずティロは早起きだな……」
「ルイスの元気が無さすぎるの! ほら、早く行くよー?」
「朝はみんなこんなもんだよ……」
この子の名前はティロ・アイゼンスタット。
俺の幼馴染。
そして、将来作中最強の騎士になる女の子だ。
作中ではルイスに絶対の忠誠を誓い、一万の兵の包囲すらも無傷で突破する化け物。
そんな彼女がついているから、俺は確実に生き残ることが保証されているんだ。
こんな楽な異世界転生も無いよな。
あとは貴族として適当に生きていけば、楽な思いしながら幸せに暮らしていけるだろう。
前世でブラック企業の社員として死ぬ思いで暮らしていたことを思えばここは天国だ。
いやー、幸せだなぁ……。
「ねえねえ、早く着替えてよ~!」
「わかったわかった、着替えるから部屋を出て行ってくれ」
「やだ! ちゃんと護衛しないとだもん!!」
ティロは俺と同い年だが、既にめちゃくちゃ強い。
この街でティロに勝てる騎士は一人もいない位だ。
だから10歳にして俺の護衛も任されている。
10歳に負ける騎士ってのもどうなんだよとは思わないでもないけど……。
「はいはい……」
仕方なくティロに見られながら着替えをする。
まあ子供同士だし特に問題もないだろ。
俺が大人になってから、こういうのにティロ恥じらいをもつみたいな展開もあるのかな?
なんかいいなそういうの、幼馴染っぽい。
―
――
―――
――――
西洋風の屋敷の敷地内に一際異様な雰囲気を放つ木造の建物がある。
道場だ。
明らかに異彩を放つそれは、新刀流と言う流派の拠点である。
流れ流れてこの国にやってきた東洋人が伝えた流派で、現在はムサシ・レーニンゲン師範代を務めている。
数年前にルーデンドルフ家がムサシ・レーニンゲンを騎士として迎え入れた事で、この屋敷に道場を構えて兵士達に剣を教えているのだ。
俺やティロもここで剣を教えてもらっている。
まあ、ひと気の少ない朝だけなんだが……。
悲しいね、領主貴族の息子とはいえ三男ではこんな扱いだ。
部屋も離れだし、護衛もティロとメイドのジルしかいない。
将来貰える領地もない。
まあゲームでは兄弟全員“謎の死”を遂げて俺が領主になるんだけど……。
作中で明らかにされてないけど、多分やったのは俺だ。
「遅い!」
道場に入るなり怒鳴られる。
声の主はこの道場の師範代……ではなくその娘のカズハだ。
俺の二つ年上で、黒髪ポニーテールが特徴のかわいらしい女の子。
「ごめんごめん」
「ルイスが起きるの遅かったの、ごめんねっ」
「はぁ……。もう、お父さんも𠮟ってよ!」
「いつもの事だし、それに将来父さんの上司になるかも知れないお方だから駄目だ」
カズハの抗議を気だるい感じで受け流している男はムサシさん、この道場の師範代だ。
ちなみにかなり強い、ティロには負けるけど……。
「むー!」
「でもルイス様、あなたは結構才能あるんだからやる気さえあればもう少し強くなれるぞ」
「やる気ねぇ……」
別に皆無ってわけじゃないけど、如何せん追い込まれてないからやる気が出ない。
ティロが守ってくれるしなぁって感じだ。
「そんなんじゃ騎士になっても活躍できないよ!」
「大丈夫、私が手柄を一杯立ててルイスを食べさせていくから! ね、ルイス?」
いいなそれ、将来はティロのヒモになろう。
俺が動かなければ兄貴達が死ぬこともないし、ティロのヒモとして優雅に生きていけばいいや。
大人になったティロ、めちゃくちゃかわいいしな。
「頼むよティロ」
「そうやって甘やかすんだから……」
カズハが呆れたようにため息をつく。
「ほら、さっさと稽古を始めるぞ」
「はーい」
まあそんなこんなで、剣の稽古が始まる。
ティロはムサシさんと模擬戦、カズハは演武の練習中だ。
相変わらずティロの動きはすさまじく早く、カズハの動きは綺麗で繊細だ。
特にティロの動きは別格で、模擬戦中のムサシさんを圧倒している。
「師匠よわーい!」
「お前がバケモノなんだよ……!」
俺の目では殆ど追えない速度の剣戟でムサシさんを追い込んでいき、師匠のはずのムサシさんは防戦一方だ。
ティロを除けばこの領地で一番強いムサシさんが攻めることすらできていない。
やっぱりティロは別次元で強いな……。
ちなみに、剣だけじゃなく魔術も人並み以上に使いこなせるから末恐ろしい。
「ま、まいった!」
「えへへー、また勝っちゃったっ」
どうやら決着がついたみたいだ。
バテバテのムサシさんが倒れこみ、それを見下ろすようにティロが息も切らさず立っている。
すげぇ……。
ちなみに俺はと言えば、まあ、うん。
普通だ。
どうやら才能はあるらしいが、活かせてはいないのでふつーに剣を振るい、ふつーに稽古が終わる。
毎日その繰り返しだ。
慣れはすれど、強くはならない。
「ルイス、もう少し剣の持ち方を意識して?」
「どんな感じ?」
「うーんそうねぇ……ちょっと動かないでね?」
そう言ってカズハが俺の後ろに来て抱きしめるように体を重ねる。
どうやら剣の握り方を教えてくれるみたいだ。
「こうやって握るの、わかる?」
「うーん、こんな感じ?」
「そうそう! やっぱり才能はあるのよねぇ……」
「カズハの教え方が上手いんだよ」
俺がそう褒めると、カズハの顔が赤く染まる。
どうやら褒められるのに弱いらしい。
「もう! 浮気はだめ!」
そんな事をしていると、ティロが割って入って来る。
嫉妬してるのかな?かわいい子だ。
「浮気って、あなた達結婚してないじゃない」
「だめなの! ルイスは私が養うの! さっきお願いって言われたもん!」
「駄目です、ルイスは立派な騎士に育てます」
「だめ! 私と結婚してルイスは怠けて暮らすの!」
ダメ男製造機じゃん。
ゲームのルイスがあんな屑に育ったのってこの子のせいなんじゃ……。
「ルイス様も大変ですなぁ。愛が重い二人にこんなにも……」
ムサシさんが同情したように肩に手をのせて来る。
「片方あなたの子供ですけど……」
「これは一本取られましたなぁ」
俺が抗議すると笑いながら二人の元へ歩いて行く。
適当なおじさんだなぁ……。
「そろそろ稽古も終わりにするぞ、メイドさんも来てる」
「来てませんよ?」
道場の入り口をみるが、まだメイド……ジルは来ていない。
幽霊でも見えてるのか?
「ルイス様、お迎えに上がりました」
と、思っていると道場の入口に銀髪のメイドがやってきた。
間違いない、ジルだ。
え、どゆこと!?
未来でも見えてるのか??
「ほらな、来ただろ?」
「す、すごい……。ムサシさんは未来が見えるんですか!?」
「いや、足音が聞こえただけなんだが……。とにかく、お前たちもこれ位周りに気を配って生きていけ。特にルイス様は暗殺にも気をつけなきゃいけない立場ですから」
「俺を殺そうとする奴なんていませんよ、俺は三男ですよ?」
「ルイス様、自分を卑下してはいけません」
そういう物なんだろうか?
俺を殺したってなんのメリットもないし、安心してよさそうだけどなぁ……。
「ルイス様、朝食が冷めてしまいますよ?」
ジルが暗に早くしろと急かしてくる。
待たせると後が怖いし、はやく道場をでるとするか……。
「ほら二人とも行くぞ」
「はーい」
そういって、さっきまで喧嘩してた二人もついてくる。
子供だからね、飯の誘惑には勝てないんだろう。
―
――
―――
――――
「わー、今日はなんだか豪華だね! ケーキまであるよっ」
食卓に朝食が並んでいる。
基本的には俺とティロ、それに稽古の後はカズハも一緒にご飯を食べている。
普段はパンとスープのみとかなり質素なんだけど、今日はそれ以外にやや大きなケーキが置いてある。
「王室からルイス様にと送られてきた最高級です」
「え、王室から? なんで俺に?」
「……さあ?」
俺なんかやったかな?
何もやってないと思うんだが……。
「いいじゃんいいじゃん、食べようよー!」
「……まあ、そうだな」
「ケーキはルイス様専用ですので」
早速ケーキに手を付けようとしたティロに対してジルが冷たく言い放つ。
えぇ……。
なんだそれ、いたたまれないんだが……。
「うー……わかりました、我慢します」
今にも泣きそうな顔で手を止めるティロ。
カズハも食べたそうにケーキを見つめている。
流石にかわいそうだから食べさせてあげるか……。
「じゃあティロとカズハには毒味してもらうかな」
「ほんと!? わかった、するするっ」
「わ、私もいいの?」
「ああ、いいよ」
二人の顔がパっと明るくなる。
うんうん、こういうのは子供が食べてこそだ。
ティロが喜んでくれれば俺も嬉しいしな。
「ルイス様……わかりました、毒見という事であれば許可いたしましょう」
心なしかジルもうれしそうな顔をしている。
主の成長が嬉しいんだろう。
まあ、“元のルイス“じゃこんな行動ありえないだろうしな。
「ティロから先に食べていいわよ」
「いいの? ありがとカズハっ」
二人はさっきまで道場で喧嘩していたのが嘘のように和気あいあいとしている。
ケーキの力は偉大だな。
「じゃあいただきまーすっ」
そう言って、ティロが勢いよくケーキを頬張る。
その姿は実に微笑ましく、それでいてとても愛おしい。
「……う“っ」
咀嚼して飲み込んだ瞬間、ティロが苦しそうに咳き込んだ。
大方勢いよく食べ過ぎて喉を詰まらせたんだろう。
「おいおい大丈夫か? ジル、水を……」
「う“う“っ……る”、ル“イ”ス“っ”た“す”け“……」
明らかにのどに詰まらせたのとは違う苦しみ方をして、ティロが机に倒れこむ。
え、え!?
どういうことだ!?
「おい! ティロ、大丈夫か!?」
「えっ? えっ? ティロ……?」
なんだこれ、どうなってる?
ティロの顔がどんどん青ざめていく。
どうしよう、まったく状況が掴めない。
なにがどうしてこうなった……?
「まさか、毒……?」
ジルがそうつぶやいてティロの元に駆け寄る。
ケーキを吐き出させようと口に指を突っ込み嘔吐を促すも、既にティロは何も反応しなくなっていた。
「ジル、ティロは……?」
「“エクスヒール”」
ジルが回復魔術を使用するが、ティロはピクリとも動かない。
嘘だろ、ティロが……?
「嘘だ、嘘だ……! ティロっ! ティロ!!!」
すぐにティロの元に駆け寄って声をかける。
普段なら嬉しそうに笑顔を向けてくれるはずの少女は、苦しそうに顔を歪ませたままピクリとも動かない。
肌は青白く染まり、一切の生気を感じさせない。
嘘だ、嘘だ……。
だってそうだろ?
ティロは作中最強の騎士で、俺の事をずっと守ってくれるチートキャラなんだ。
だからこんな何もない、本編すら始まっていないところで死ぬわけが……。
「目を覚ましてくれ、ティロ、ティロ……!」
たった一年だ。
転生に気づいてから今までのほんの少しだけ一緒にいただけの女の子だ。
そのはずなのに、なんでこんなに苦しいんだ……?
自分を守る最強のキャラが死んだから?
俺の命が脅かされているから??
……違う、そうじゃない。
俺はただ、目の前の女の子が大切だったんだ。
大切で、かわいくて、俺の事を愛してくれていて……そして何より俺自身が愛していたからこんなにも辛いんだ。
もう、自分でも今何を叫んでいるのかわからない。
頭ではこんなにも考えているのに、俺は今も泣きわめいている。
涙が止まらない。
何も考えたくない。
転生だなんだと浮かれていた自分を殴りたい。
……俺も、そして俺の周りにいる仲間たちも何も安全じゃなかった。
何が“確実に生き残ることが保証されている”だ。
これはゲームじゃない、俺が知っている通りに進む保証なんてどこにもないんだ。
なのに、なんで俺はこんなにも警戒せずに……。
くそっ、くそっ……!!
―
――
―――
――――
……間違いなく、これは誰か悪意のある第三者による毒殺だ。
許さない。
許してなる物か。
俺は必ず犯人を見つけ出して殺してやる。
そのためには、仲間が……力が必要だ。
ティロに匹敵する、いやそれ以上に強い仲間を集めるんだ。
だれか、誰かいないか?
原作知識をフル回転させて見つけ出すんだ、“作中最強“に匹敵する誰かを。
考えろ。
考えろ考えろ。
考えろ考えろ考えろ。
誰か、誰かいないか!?
今の……子供の俺でも仲間に出来て、且つティロよりも強い、そんなキャラ。
そんな都合のいい存在いるわけ……。
いや、待て?
……そうだ。
このゲームには作中最強キャラに匹敵する、いや……それすらを超えるキャラがいるじゃないか。
“裏ボス”が。
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