第28話 躊躇い

『Blitz』


 指先をロッカーに当てた。


『認証しました』


 承認され、扉が開く。

 内側に、1丁の自動拳銃が保管されている。

 私の相棒。グリップが少し前後に広く、他と比べると玩具のような見た目。

 でも、銃弾を込めたら撃てる。APRの装甲をいとも簡単に貫けるような銃弾。

 20発の弾丸をマガジンに込める。

 鉛を含まない銅のジャケットと、アルミニウムの芯弾。

 グリップの底にマガジンをセットして、スライドを引き、装填させる。

 隣でシャッテンはボルトアクションライフルを取り出している。


「ナハト、大丈夫かな」

「何があったか分かりませんが、どうせすぐ復活するでしょう」


 握力が強まる。


「うん……」


 地下の射撃トレーニング室で単純な機械音が鳴る。

 それを合図に人型の的が自動的に動き出す。

 タイマーがゼロに向かって刻む。

 耳栓越しに響く、爆裂音。

 的は、急所を中心に砕け折れた。

 シャッテンの命中精度はとっても良いって評価されているみたい。

 異常な集中力と強靭な忍耐力を持つ、逸材。

 凄いんだ、シャッテンもナハトもそう……。

 私も、役に立たなきゃ。自動拳銃を構え、サイト越しに狙いをつける。

 急所から離れた肩部分に銃弾が当たり、破片が飛び散った。

 ずっと撃ち続け、スライドが開く。

 

「ナハトのことで集中できていませんね」

「う、そ、そうかも」

「アナタはコア回収という大きな役割があります。背後は私が必ずサポートしますから、胸を張って夢の為に進むんですよ。私達にできることはそれしかないんです」


 シャッテンの言う通り……きっとナハトは参加してくれる。

 できることをしないと。


「うん、ありがとうシャッテン」




 射撃訓練を終えて、1階に戻ると、通路のベンチに腰掛けるナハトがいた。


「ナハト、大丈夫だった?」


 駆け寄ると、ナハトは笑顔で手を振ってくれた。


「大丈夫、ちょっと動揺してただけ」

「全く、そんな調子では任務に支障が出ますよ」

「あーそれなんだけど、やっぱり行けない」

「もしかして、前に言ってた競技場って、あそこで都大会があった話?」


 ぎこちなく、弱弱しい頷き。


「行くだけで辛いよ。部員のみんなが、あそこで死んでるんだって思ったら、怖くて行けない」

「なんですか、大切な仲間が亡くなったのなら、尚更立ち向かうべきでは?」


 鋭く強い言葉に、ナハトは苦い表情で立ち上がった。


「シャッテンと同じにしないでよ、みんなシャッテンみたく強いわけじゃない、辛いったら辛い、行きたくない」

「今までもそうやって逃げてきたんです?」

「……そうだよ、痛いところ突かなくていいじゃん! 素性が話せないんだから察してよ!」

「関係ありません。私達はAPR殲滅チームなんです、どれだけ苦しくても、私は私の夢の為に戦う。そのためにはナハトとブリッツが必要なんです。ウジウジしていると、今度こそ追い抜きますよ」

「無理、絶対に行けない!!」


 強く首を振って拒否を示し、走り去る。


「あ、ナハト!」

「まだ任務まで時間はあります。事情も聞けない以上、待つしかありません」

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