第24話 地下ラボラトリー(シャッテン)

 非常電源を起動させ、エレベーターは地下へ。


 B1階『東セキュリティラボラトリー』

 

 研究所ということなんでしょうか、非常灯と、我々のLEDライトが照らすのは、いくつもの部屋に繋がる通路でした。

 少し、都市とは違う腐った臭いも、漂っています。


『APRラボ』

『バイオ室』

『遺伝子検査』

『暗室』

『実験室』

『飼育室』


 地下は無事だったということがよく分かります。

 城戸さんは部屋などお構いなく、どんどん真っ直ぐ突き進んでいきます。


「どこまで行くつもりですか?」

「いいからついてこい」


 何度訊いても同じ答えばかり。

 光が行き届かない非常灯すらない、足場があるのかどうかも分からない暗闇を開拓しながら奥に向かうと、分厚い扉に突き当たりました。

 入るには何かカードが必要なようですが……壁が血で濡れています。

 ライトを下に向けた瞬間、角に上半身がめり込むような体勢で倒れている、人がいました。

 血で半分以上染まった白衣、体つきから判断して、男性。

 識別できないほど顔中も血だらけです。

 テーザーガンで殺された方々と違う、もっと酷い有様。


「なにがあったのですか……これは」

「東セキュリティの研究員が1名、頭に銃弾を撃ち込まれたくたばってる。APRの仕業とは思えない。まだそんな、日が経ってないってことは、最近まで奴はここにいた」


 城戸さんは司令と無線で話しているのでしょう。私の無線は未だに繋がりません。

 落ちた時の衝撃で完全に壊れてしまったようです。

 城戸さんは小林さんとやり取りをして、みんなが無事にいることも確認できており、あのAPRのコア回収、ブリッツがやり遂げたことも……今、私の心臓は落ち着いています。

 死体を前にしても冷静でいられる自分が、どうにも狂っている気がします。 

 城戸さんは、死体の手に近づき、カードを抜き取りました。


「今からラボラトリー会議室に入る。シャッテン、お前は入り口を見張ってろ。間もなくあいつらも合流する。でも中には入ってくんなよ」

「なんです? ここまで連れてきておいて……」

「永嶋からの命令だ。ここより先は調査隊の任務ってこと」


 カードを扉のセンサーにかざし、重い扉がスライドし、ゆっくりと開きました。

 同時に、こもっていた空気が、血の臭いが……後ずさりして思わず口と鼻を塞いでしまいます。

 一体東セキュリティに何が起こっているのか、全く分かりません。

 辿ってきた通路を駆け出す音が聞こえてきました。


「シャッテンっ!」


 ふり絞って出したこの声は、ブリッツ。

 あぁ、落ちた衝撃のあと、聞こえたあの大きな声は、ブリッツだったのですね。

 ライトを照らせば、辺りを警戒しながら進む、任務中の硬い顔をしたナハトも。


「ずいぶん、遅かったんじゃありません?」

「別に遅刻してないでしょ。シャッテンも平気そうだね。私達がいなくて不安だったんじゃない?」

「いいえ、全く。APRを足止めしたのは私達です。むしろ感謝してほしいものですね」

「相変わらず素直じゃないの、損するよ、その性格」

「損得勘定で動いていません。私は私の信じることをしているまでです」


 ブリッツは、「任務中だから」っていつもの大人しい口調で、割り込んできました。

 全く、仕方ありません。早くこの場から去りたいです。

 異様な空気、漂う鮮血と腐った臭いが混じる悪臭の地下は、異常です――。

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