第21話 遭遇(シャッテン)

 そもそもA-eyeにインストールされたマップには地下なんてありません。

 本当に地下が存在しているのか疑問です。

 従え、なんて横柄で暴力的な言葉、大嫌いです。

 何故、すぐに合流せずAPRがいる下に行くのか……。


 階層5階まで下りたところで、城戸さんは立ち止まる。邪魔ですね。


「血だ」


 階段下に向かって血液が……生存者は35階から落下したのに生きているということでしょうか。


「逃げたのでは?」

「怪我してる状態じゃ遠くまで無理だ。社内のどこかに隠れてるだろ、仕方ねぇ、血を辿って確保だ。それから地下を目指す」

「はい? 正気ですか?」

「あぁ正気だ。お前より理性はある」


 腹の立つ言い方。上から目線。


「一言多いですね」

「お前が口うるせぇんだよ。さっさと来い」


 ブリッツが装備している拳銃よりも無骨で、大きな自動拳銃を取り出し、城戸さんは4階層へ。

 はぁ、早く合流してほしいですわ……。

 扉を蹴り飛ばす背中を追う。

 階層が若くなるほど状況は酷く、血の臭いも充満しています。

 1階エントランスは小型APRがいただけで、人の姿はありませんでした。

 血を辿ると、営業部署のオフィスに到着。


「やれ、やれ!!」


 例の生存者の声が聞こえ、体と一緒に銃口を構える。

 腹部から血を漏らしている状態だというのに、声を荒げて、瞳孔は大きく焦点が合わない。

 非常に危険でしょう、このままでは失血して死んでしまいます。

 風を切る音、ドローンタイプの小型APRが5台。

 城戸さんは「撃て」と同時に拳銃を発砲。

 いきなり過ぎません? ホロサイトの光点に標的を合わせ、遅れて発砲。

 小型APRが原型を崩し、赤い飛沫が辺りに舞う。

 まるで……鮮血のようですね。

 ハンドルを引いて排莢後に装填を繰り返し、続けて発砲。

 壁に金属片がめり込み、小さい球体のコアが割れる。

 グレーの壁が、真っ赤に染まっていく……コアは、何でつくられているのでしょうか。

 全ての小型APRを破壊したあと、営業部署のオフィス内は赤い液体まみれで、血の臭いがさらに深くなった気がします。


「来るな来るな来るなぁああぁあ!!」


 壁に張り付いて、首を大げさに振っている生存者……醜く暴れています。


「落ち着け、殺したりしねぇよ。手当をして、安全なところに連れていく。だから抵抗するな」


 あんな大きな拳銃を向けられて、落ち着けるわけがないでしょうに。


「そうやってウソをつくんだ、つくんだろ、あいつみたいに、あいつは、あいつがあいつががざ、えいぎょ、営業部をバカにして、この、自分で全部設計して開発したからって偉ぶりやがって!!」

「おいおいおいあんま喋んな」

「やめろやめろやめろ……ぅううあ」


 何を、しているのでしょうか? 生存者の喉近くまで銃口を宛がうだなんて……。


「ちょっとどういうつもりです? 危ないことをしないでくださいな」

「お前は黙ってろ!」

「黙りません! あまりにも横暴で無茶苦茶です、生存者を殺さず捕らえると永嶋司令は仰っていました。永嶋司令の命令に逆らうつもりですか?」

「あーあー口うるせぇな、お前は本当に。こっちにも事情があんだよ!」

「いいえ、APR殲滅チームとして、貴方の横暴は看過できません」


『gigii---ga』


 不快な機械が綴るような音声が響き、城戸さんは頭を掻く。


「くそ、話は後だ!」


 壁を突き破り、残骸を転がり吹き飛ばす土砂のような勢いに、態勢が崩れてしまう。


『gigigiigigiigiiiiiiiiixiii!!』


 四角いフォルムに、節足動物のような脚部が四つ。

 単眼レンズは赤く光って、私達を狙っています。

 この前の任務以来じゃありませんか……。

 二又のテーザーガンを左右に備え付けて、5万ボルトの電圧を放とうと、火花を散らす、大きなロボット。

 ざっと3メートル、こんな重たく危険な金属が都内を歩き回っているだなんて、ゾッとします。

 夢さえ理解できないロボット如きに、私達の想いを潰されたくありません。

 光点が捉えたテーザーガンの先端に、1発。


『ggigigigii!!?』


 右アーム部分のテーザーガンを破壊確認。

 部品は大きく崩れて、床をへこます。


「上等です。ぶっ潰してやります」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る