第20話 分断(シャッテン)

『どんな夢だって、掴もうとがむしゃらになれば、叶うもんだ!』





 ずいぶんと、大きな声ですね……眩んでしまいそうです。

 体が締め付けられている、苦しい。

 

 

 私、一体……作詞中でしたか、いえ、弦の交換をする予定だったかもしれません。

 体中が痛い。

 焦げ臭い。

 口に硬い異物が入って……――。


「げほっ! げほ、ふぅ……」


 視界が揺れている気がするのですが……ここは? 左目にバイタル数値が流れ込んでいる? あぁ、そうでした、東セキュリティ本社に突入し、データ回収と安全エリア確保の任務中でしたね。

 真下は奈落の底みたく穴が開いていて、私は、どうなっているんです?

 確か、35階に到着し、生存者を発見。

 混乱状態でブリッツに襲い掛かったところを……ナハトが発砲。

 手当を調査隊の城戸さんがして、私達は辺りを警戒していたのです。

 そこから先が曖昧ですね、かなりの衝撃があったような気がするのですが、いつの間にか何かに吊るされている?

 司令から与えられた大切な武器は、気を失っていてもしっかり握っていたようです。


「ナハト、ブリッツ? 聞こえますか?」


 反応なし。


「ったく、あぶねぇ」

「はい?」 


 苦手な声。乱暴かつ横柄な態度の人相が一瞬にして頭の中で描かれてしまう。

 引っ張られ、私の体は上昇。


「デカい金属の塊が落ちてきやがって、無線機は故障するわ、せっかく見つけた東セキュリティ社員も落とすわで散々だな」


 難なく持ち上げられてしまい、どこかの階層の床に着地。

 フック式のロープを巻き戻す城戸さんは埃にまみれ、唇や目元から出血しています。


「……」

「見たところ異常なしだな。おい喋りやがれ、シャッテン、なんか言うことあんだろ」

「……ありがとう、ございます」


 感謝を強要された気がします。

 とはいえ、死んでいた可能性が高い状況で助けられたのですから、気持ちは半減してますが言っておきます。


「おーははっ、よく言えましたってか、ははっ」


 ムカつきます。


「それで、ナハトとブリッツも落ちたのですか?」

「いいや、俺らより下に落ちたのはAPRと東セキュリティ社員だけだ。上階にはいるだろ。無線は永嶋とも繋がらねぇが、お前のA-eyeがあるから反応は拾ってるはずだ」

「でしたらまず、2人と合流した方がいいでしょう」

 

 城戸さんは太く筋肉質の首を横に振り、今いる階層よりもさらに下を指す。


「地下だ、地下を目指すぞ」

「はい?」

「来い、シャッテン。永嶋と通信できない以上、今から俺が指揮する」

「何を言ってますの? 調査隊の任務はデータ回収じゃなかったんです?」


 最初の任務内容とは違うことを優先させるなんて、なんなんですの、この野蛮な人。


「いいから黙ってついこいっての、夢の為に生き残りたきゃ従えってんだ!!」

「私はAPR殲滅チームです! 3人で前線に立ち、命をかけて夢を叶える、3人でなければ意味がありません!」

「はぁああ……いいか、あいつらはデータ回収をしたら必ず合流しに来る。もしこのままAPRと接近しても、俺はお前達を死なせねぇ! 今、その責任は俺にある!! だから従え!!!!」


 罵倒のようなボリュームで叫んで、顔は真っ赤。

 言っていることは、やはり横柄に聞こえます。不服です。正直従いたくありません。

 ですが、ナハトとブリッツの為、今は従うしかありません――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る