第19話 データ回収

 痛い……。


「ブリッツ、ブリッツ! 起きて!!」


 揺すられて、一気に視界が明るくなった。

 頭がぼぉっとする、やっぱり痛い。

 血相を変えて私のそばにいるナハトの顔が映り込んだ。

 天井が崩れ、曇り空が遠く、小さな穴の先に見える。


「良かったぁ、もう目を開けないから、心配した……無茶しちゃダメじゃん!!」

「あれ、私、どうなって」


 体を起こして、辺りを確認。

 床も見事に崩れて、大きな穴ができている。


「APRが上から落ちてきて、シャッテンが、あと城戸さんと生存者も下に」

「シャッテンが、でも、後方にいたのに」

「私も分かんないんだよ、いきなり過ぎて、周りを見る余裕なくて、無線も繋がらないし」


 35階より下に落ちたら、絶対無事じゃ済まない。


「シャッテン!!」


 ギターを弾くシャッテンが脳裏に浮かぶ。大きな声で叫んだ。

 10秒ぐらい待ったけど、返事は聞こえてこない。


『――――ブリッツ! ナハト!』


 永嶋司令から、無線が。


「司令、シャッテンが、城戸さんが、あの」

『とにかく落ち着け。シャッテンのA-eyeが生きている。反応もある。ただ落ちた衝撃で無線機器が壊れた可能性が高い。いいか聞け、ブリッツ、ナハト』

「はい」

『2人で開発部署内を捜索しろ。APRのコア回収に必要なデータが必ずあるはずだ。探すんだ。見つけ次第、非常階段から下りてシャッテンと城戸、生存者と合流を目指せ』

「了解、です。あの、司令官、私……生存者を」

『詳細は後で聞く。ナハト、今は目の前のことに集中しろ!』

「りょ、了解」


 動揺が隠せないナハトの表情は曇っている。

 両手のSMGサブマシンガンが震えていて、私は思わず手を伸ばす。


「ナハト……あの、ありがとう……また助けられた。本当に、私、せっかく格闘術教えてもらってたのに、咄嗟にできなくて情けないよ。だけど今はやらなきゃ、シャッテンと急いで合流しよう。APRも落下したから、危ない」

「そう、だね。私の方こそありがとう、ブリッツ。そうだよ、シャッテンが危ないんだから、早くデータを回収して、合流しよう」


 まだ声も震えているけど、少しだけ口角が上がった。

 永嶋司令の言う通り、まずは目の前のことに集中しないといけない。

 さっきの衝撃で壁も剥がれて、開発部署は丸見え……窓も粉々で強い風が吹いている。

 東セキュリティ本社の開発部署……デスクはきっちり並んでいる。

 争った形跡なし、イスも綺麗に収まり、デスクトップ型のパソコンだけが残っていて、書類は少ない。

 パソコンを起動させてみる。


「やっぱりパスワードが必要みたい……」

「どっかに隠したりしてないかな、私の親、よく紙に書いてたんだけど、あれってあるある?」

「え、分からない……どこかのデスクに挟んであるとか」


 一通りデスクを覗いてみたけど、見当たらない。

 そんな都合よくないか。


『ブリッツ、開発部署責任者のデスクにあるパソコンを起動させろ。そこに認証システムがあるはずだ』

「了解です」


 開発部署責任者のデスクは、他とは別の隅にあった。

 偉い人が座るんだろうな……デスクトップ型のパソコンを起動すると、東セキュリティ特殊認証システムと表示されている。


『モニターの上にあるレンズを見てくれ』


 言われた通り、小さな丸いレンズの奥にあるもっと小さな穴を見た。

 すると、『認証しました』と文字が……。


「え? どういうこと、ですか?」

『A-eyeを通してハッキングさせた。ブリッツ、データを探せ』


 そんなこともできるんだ。A-eyeって凄い万能。


「よし探そう。私、こういうパソコンとか苦手だから、ブリッツにまかせる」

「う、うん、私も自信ないけど、やってみる」


 APR関係のフォルダを一通り探す。

 英数字がたくさん並んでいて、全くよく分からないけど、右目のA-eyeは関連性が強いフォルダーを分かりやすく太く強調してくれる。

 その中で、ガードセキュリティの名前もあり、当然A-eyeが反応を示す。

 開いてみると、名簿データという表示が出てきた。

 写真と、名前、出身地、家族と色々詳細が書いてある。

 眩暈が起きるような給与金額、これが大企業……。


『……暴走が起きる2週間前か、確かにガードテクノロジー社から2人引き抜かれたと聞いた。高額な給料と、社宅で一軒家?』


 信じられない、と永嶋司令は溜息をつく。

 

『はぁ、今回のデータとは関係がない。APRの番号データを探してくれ』

「了解です」


 ラボラトリーというところと何度かやり取りをしているログと、他には……APRのコア番号……。

 ページを開くと、無限に思えるほどの数字が羅列する。


『よし……データはA-eyeからこちらに転送させる。そのままジッとしていてくれ』


 右目に膨大な量の数字が流れていく。

 うわ、気持ち悪い、なんだか酔ってしまいそう。


「う……」


 見兼ねたナハトに支えられ、なんとか倒れずに済む……――。



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