第18話 生存者発見

 非常階段を慎重に進む。

 後方はシャッテン、真ん中に私と城戸さん、前方にナハトの構成。

 今のところ、永嶋司令官とオペレーターの小林さんから通信はなし。

 敵影もなく、35階まで上がっていく。

 ガードテクノロジー社の階段を何往復も走る訓練を思い出す。

 いつも最後。体力、ついてきてると思うけど、やっぱり能力差があるから、2人についていくのは大変だ。

 真ん中だと余計に、神経を使ってしまう。

 だめだ、余計なことを考えちゃ、できること、しなくちゃ――。



 ひたすら上がっていくと、 ボロ、ボロ、と灰色の欠片が落ちてくる。

 瓦礫の一部かな。真上に顔を向けると、爆風で崩れた階段と、そこから剥き出した金属の骨。

『35』が貼られた踊り場より上は曇り空が続く。


「おいおい運がいいじゃねぇか、35階で切れてやがる。壁よじ登らなくて済んだな」

「え……でもここ、もう」


 少し下を覗けば地上が小さく見える。

 意識が遠のきそうな、ふわりと宙にいる感覚で足が竦んでしまう。


「なきゃよじ登る。訓練させてねぇのか?」

『……城戸』

「へぇへぇ。じゃ、進んでくれ」


 35階の扉、というより、大きな穴になってる。

 強引に破壊したのかな。


「こんな大きな穴、通常のAPRがいるんじゃありません?」

「多分ね、警戒を続けよう」

「うん」


 銃弾は装填してある、いつだって撃てる……大丈夫。

 1階のエントランスほど荒れてないけど、天井は亀裂があって、風の漏れる音が聞こえる。


【35階 開発部署】


 だらん、と電線に繋がった部署の看板が不安定に揺れている。

 非常灯だけだと暗い、曇り空だから余計に周りが見づらい。

 

「うぅう……あぁぁ」


 底を這い、苦しんでる声。

 シャッテンがすぐに無線で話す。


「声が聞こえます。生存者かもしれません」

『了解。東セキュリティ社員の可能性がある以上、警戒してください。距離をとってA-eyeで状態確認をしてください』

「了解です」


 城戸さんは懐中電灯で周囲を照らし、声の主を捜す。

 私達も同じように照らした。


「やめろ!! やめろ!!」


 大声を上げて、ばたばたと両腕を振っている。

 スーツ姿の男の人で、髪はクシャクシャで瞳孔は大きい、怒ってる? 

 A-eyeの情報は……興奮状態、高いバイタルサイン、外からのショック状態と精神的ストレスの可能性……。


『ナハト、シャッテン、ブリッツ、離れろ。城戸』

「あぁ、こいつは」

「やめろやめろやめ、お前らは馬鹿にして! そうだ、開発部が、こんなところにとじこぅぐああああ!!」


 ふらつきながら立ち上がった。

 早口で何を言ってるのか分からない。

 学校の保健室で唸ってた人が頭に過る。


「いいかガキ共、APR以外撃つな、俺よりもっと後ろに」

「お前ら、お前が、開発部が、このやろう!!」


 顔を真っ赤にして走ってきた。

 両手を大きく上げて私に掴みかかる。

 A-eyeが、危険だって知らせてる。

 攻撃しろって、でも、頭を揺らされて、どうしたら、襟が痛い。


「ブリッツ!」

「撃つなっ!!」


 城戸さんの制止する声と同時に耳鳴りがするほどの破裂音が1発。

 何もかも一瞬のことで分からない。

 私の、両手はしっかりグリップを握っていた。

 でも反動とかそんなのは感じなかった。


「はぁ、はぁあ……」


 呻きながら、後ろに下がっていく。

 お腹部分から、染み出す赤い液体……を抑えて、睨む。

 血まみれの指で、私を指す。


「おま、え、おまえが、あ……ぁ」


 そのまま座り込んだ。


「あ、あ……あの」

「ナハト、銃下げろ。安心しろ、こいつは生きてる。手当するから、お前らは周りを警戒しとけ。あぁ、永嶋、ちょっとアクシデントだ、生存者は無事だ……軽いせん妄状態だが、血が抜けて冷静になるだろ。へぇへぇ分かってる」


 城戸さんは平静を保った口調だけど、硬く険しい表情。

 ナハトは銃口を下げて、冷静な表情を崩す。


「わ、私……だって」


 何かを言おうとしたナハトと、私の間に欠片が落ちた。

 それも大きな瓦礫の一部。

 重い振動が伝わる。


「え」


 学校の任務と似た、あの瞬間が頭に刻まれていて、私はすぐにナハトを押し倒す形で飛び込んだ。

 音が、大きすぎて耳栓しているのに鼓膜がおかしくなりそう――。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る