第10話 作戦会議

 射撃訓練を始めて5日目。

 耳栓や右目にも慣れてきた。

 右側だけ視界が薄っすら赤くなるから最初は慌てるけど、時間が経てば気にならなくなる。

 ガードテクノロジー社が開発したAIとバイオを融合させた『Aeye-ver2.5』はカラーコンタクトみたいなもので、レンズに文字がすらすらと流れてくる。

 それが頭に入ってくる感じがどうにも擽ったい。

 作戦中に弾詰まりが起きた時の対処法……叩くなんて、なんだか原始的。

 それから簡単な掃除とか、分解方法も教わった。


 銃ひとつで私の将来が大きく変わる――。




 ミーティングルームに集合。

 永嶋司令は、帽子の奥で真っ直ぐ私たちを睨んでいる。

 オペレーターの小林さんのほかに、救護班、あとは城戸さん。

 口にしないけど、ナハトとシャッテンは嫌悪感を表情に浮かべる。


「おーおー精々生きて帰ってこいよ、ガキども」

「城戸、やめろ」

「生易しいと死人を増やすぞ、永嶋」


 ふんぞり返った城戸さんは隅のイスに腰かけて足を組む。


「みんな座ってくれ。これから作戦会議を行う」


 いつものように、左からナハト、私、シャッテンの順で座る。


「Aeyeにも作戦内容はインストールさせた。これでいつでも内容を確認できる、作戦中に分からなくなった時はAeyeが自動的に教えてくれるから安心してくれ」


 Aeyeって便利だ。


「俺達の初任務だ。場所は都内の私立中高一貫校、警備していたAPRが他と同じく暴走し、部活中の生徒や教員が死亡。校内の警備外エリアで隠れている生存者救出を校長たちから依頼されているが、俺達の目的はAPR殲滅だ」


 任務は、学校に取り残された人たちを救出じゃなくて、APRを爆発させずに動きを停止させること。

 APRは1台だけで、テーザーガンを装備。

 警備エリアは週末設定で校庭、駐車場、グラウンド周りにしていた。

 突如あの暴走が起きて、容赦なく稲妻のような恐ろしい電圧で痛みを与えられ、みんな殺されてしまった……。


「永嶋司令、質問いいでしょうか?」


 シャッテンが手を挙げた。


「許可する」

「APRの動きを止めたとしても、救出中に爆発する可能性だってあります。APRのコアの解明が先じゃありませんか?」

「その点は同時進行で調査を行っている城戸を含めた調査隊がいる。脚部とレンズを狙うことで、APRの動きを封じることができる、現在それで爆発の回避ができているそうだ」


 永嶋司令は簡単に言うけど、決められたパーツを狙うって難しい。


「私たちがAPRの動きを止めたあとは、救出もですか?」

「いや、救出は国にまかせる、セーフティエリアが拡大されれば警察も救急隊も身動きが取れるだろう、俺達の狙いはあくまでもAPRだ」

「……ありがとうございます」


 どこかすっきりしない横顔だけど、シャッテンは言葉を控える。

 私たちは、人命よりもAPRを優先しなきゃいけない、それが任務なんだ……。


「よし、調査隊からは何かあるか?」

「コアは胴体の、目ん玉の下側に固定して設置されてる。APRの目ん玉を撃つときは上を意識して撃ってくれってこった。じゃなきゃ学校の半分以上は消し炭になる、お前らと生存者もまとめてあの世行きだ。以上」


 城戸さんはそう言うと切り上げてミーティングルームから出て行ってしまう。


「そんな軽々と言われても」

「……とにかく作戦通り脚を潰し、それからレンズを潰す。やるしかありません、それしか見返す方法はないのですから」

「そうだな、小林は何か他にあるか?」


 窓側で立っていた小林さんはボードの前へ。


「作戦中の無線通信ですが、特殊部隊のような物はないので、APRに傍受される可能性があります。不要な通信は避けてくださいね。そして、みなさん、どうかご無事に帰ってきてください」


 優しい口調だけど、目のクマと少しふらつく体が心配になるかも……。


「よし、作戦開始は本日の午後1時。前衛ナハト、ブリッツ、後方シャッテン、相手は高性能警備ロボット、暴走してさらに厄介だぞ。とにかくテーザーガンには注意しろ、即死でなくとも心臓発作や興奮せん妄を起こし、死に至る。作戦開始になれば常に死が隣り合わせだということを忘れないでくれ――」

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