第7話 適正武器
なりたいもの、叶えたいものが見つからない。
『将来がハッキリしている人なんて珍しい』とかよく言うけど、クラスのみんなはどうして簡単に将来を話せるの? 分かんないな、私のこと、みんなのこと……――。
屋上から見た都内の天気は気持ちがいいほど快晴。
景色は相変わらず灰色と黒と時々赤がぐちゃぐちゃになっていて、残骸だらけ。
臭いもすごい、埃と腐った生焼けが風に漂う。
バランスを保てなくなったビルが崩れる毎日、すごい轟音だけど、空色がどんどん広がっている気がして、私の気持ちはなんだか晴れてくる。
私って本当不謹慎だ。
「……」
「やっぱここにいた」
ナハトの明るい声に振り返る。
「あ、ごめんね、すぐ行くから」
「ううん、まだ時間あるし大丈夫」
髪を右側に結んだ髪型で、私より背が高くて手足も長い。
爽やかな笑顔を少し控えめにして、隣に並ぶ。
「ここにいて辛くならない?」
「そ……うだね。うん、でも街がどうなってるのか気になって」
「まぁ2週間も警備会社に引きこもってるもんね、何回見ても酷い光景、臭いも」
「うん、あの、シャッテンは?」
「階段で弾いてる」
シャッテンはギターが得意で、言葉や口調が強い女の子。
物怖じせずハッキリ自分の気持ちを言えるのは、羨ましい。
ギターを爪弾くときは、強さに加えて優しい感情も伝わってくるのが不思議。
「楽器ができるとかすごいカッコいい」
「うん、かっこいい」
「でも本人に言うとすっごいクール決めて『できて当然のことです』って言うんだもんな。きっともう、想像以上の努力してるんだよね」
「うん……私も思う」
「私だったら途中で挫折してる。ライバルとかさ、自分より上手な子がいると心がぽっきり折れちゃうんだよね」
都内の遠くを眺める横顔に明るさがなく、どこか憂い気味。
「そういう風に見えない、かも」
「でしょ」
ナハトは私にニヤリと笑う。
「さ、そろそろ勉強の時間、永嶋司令に叱られる前にいこっか」
「うん……」
1階ミーティングルームの前に、凛と佇むシャッテンがいた。
私たちを強く睨んでいる。
「今度はどしたの?」
「開始3分前、ずいぶん呑気ですね」
「あ、ごめんなさい」
「いやいや遅刻してないからいいじゃん」
「よくありません、こういうロスが命に係わります」
時間にも厳しい、それにごもっともだ。
「はいはい気を付けます」
ナハトは全く気にしていない、一番乗りのシャッテンよりも先に扉を開ける。
長いテーブルに並んで席についた。
左端がナハト、真ん中が私、右端がシャッテン。
永嶋司令が決めたんじゃなくて、勝手に、そう自然にこういう並びになる。
APRに教材はないから、永嶋司令がまとめた資料を会社用スマホに配布されるのを参考にするしかない。
永嶋司令は開始時刻通りに入ってきた。
「よし、今回は適正武器について話そう」
武器、殲滅チームを結成してから初めて座学で出てきた内容。
「とうとう射撃訓練ですか?」
「ナハト、扱うのはまだ先だ。APRと戦闘を行うには銃器を使う必要がある。ガードテクノロジー社には独自の適正診断があり、体力テスト、面接、バイオ適合テストを通じてドクターが診断。その結果が今日届いた」
ドクター……ガードテクノロジー社医務担当の先生だ。スキンヘッドで顎に白い髭を生やしている人。
「結果だが、シャッテンは『ライフル』ブリッツは『ハンドガン』ナハトは『オール』つまりなんでも扱えるということだ」
「えぇ?」
なんでも扱える……ナハトはやっぱり凄いんだ。
戸惑っているナハトの表情が私を見つめる。
「それって体力が関係してるってこと?」
「いや、総合的に診断した結果だ。戦闘中に誰かが欠けたとしてもカバーできる存在、期待しているぞ」
永嶋司令の真っ直ぐな瞳に、ナハトは頬を掻いて苦笑い。
「永嶋司令、ライフルとはいったいなんでしょうか?」
「あぁ説明する。簡単にいえば遠距離、後方からの狙撃手と思ってくれたらいい。時には単独行動をし、時にはチームの後方から狙撃をする役割だ。武器は
「後方なんですね」
「冷静かつ的確な判断と命中精度、そして強靭な忍耐力がなければ難しい役割だ。強力な銃弾でAPRの装甲を潰すことだって可能だぞ」
「なるほど……プロが判断されたのですから、やってみせます」
シャッテンの鋭い眼差しと力強い言葉は、横にいる私まで圧倒されてしまう。
「あぁ期待している。ブリッツ、君の適正は拳銃。近距離からの射撃はかなり危険だ。できるか?」
「正直、怖いです。でも、はい……目標のためにできることをします」
何もかも分からないことだらけ、できることをしないと、前みたいに無駄に彷徨いたくない。
「よし、APRの解明はもうすぐできる。対処方法さえ分かれば適正なトレーニングと知識だけあればいい。今日は適正武器の取り扱いの知識を短時間で叩き込む。休息中も復習しろ」
「了解」
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