第6話 訓練開始
オートパトロールロボット、通称APR。
角ばった胴体とすぐ下に節足動物のように歩く4本の脚。
広範囲を見渡せる単眼レンズは夜でも関係なく相手を認識することができる。
胴体両サイドに侵入者を制圧する二又のテーザーガンが収納されていて、5万ボルトの電圧を放つ。
博物館で見たあの電流は、5万ボルトを上回っていたと思う。
永嶋司令は、爆発についてはまだ調査中で、原因をはっきりさせない限り、私たちAPR殲滅チームは動けないみたい。
とにかく今日も、明日も、その先も厳しい訓練と座学が続く。
今日も地下トレーニングルームでひたすら筋トレとランニング。
永嶋司令の真っ直ぐな瞳がじっと私たちを睨んでいる。
窮屈さ感じつつも、タイマーが鳴るまでの間腕立て伏せを続けた。
コードネーム『ブリッツ』私に与えられた名前。
右側にスポーツが得意な女の子、コードネーム『ナハト』
左側にロングヘアでギターが得意な女の子、コードネーム『シャッテン』
黙々と競うように回数を重ねていく。
汗が雨みたいに床を濡らす。
タイマーが鳴って、今度は腹筋。
私を間に挟んで、シャッテンの鋭く強い睨みが飛んできた。
睨みはナハトに向けられていて、でも彼女は一切興味がない、というよりは相手にせず打ち込んでいる。
仲良く、できてるのかな、ライバル意識ってこと? ずっと1人でいる私には分からない。
唯一分かっているのは、2人とも身体能力が高くて私じゃ到底追いつけないこと。
夢を探すために志願した以上やることやらなきゃ、残骸の一部になってしまう。
タイマーが鳴って、今度は1時間ランニング。
「もーくっついて走るなってば、ペース崩れるじゃんか」
ナハトの助言に耳を貸さず、シャッテンは張り付くように走っている。
「これが、私の、ペースです!」
ナハトは振り切ろうと加速していく。
もう何回追い抜かれたんだろう、全力でペースを上げて走っている。
引き離されたシャッテンは驚きながらも、歯を食いしばるように前傾姿勢で追いつこうと走り出す。
2人とも凄い、私だって、全力で走っているのにな――。
最後のタイマーが鳴り響く。
ふらつく足取りを立ち止まらせるのに、1、2歩かかり、手が膝に吸い込まれる。
トレーニングルームの床に汗が幾度も落ちていく。
「よし、5分休息後1階のミーティングルームに集まるように、いいな?」
「了解!」
震える喉で返事をする。
顔を上げる余裕もなくて、しばらくこのまま。
扉の閉まる音がハッキリ聞こえた。
「は、はぁ、はぁー」
「ふぅ……」
私以外にも息を整える声に、少しだけ顔を上げてみた。
ナハトはシャツの裾で汗を拭う。引き締まった腹筋が丸見え……。
シャッテンは、鋭い眼光でどこかを見つめ、静かに呼吸を整えている。
「やば、こんなに走ったのマジで久しぶり……はぁー」
「普段のジョギングと、比べたら、大したこと、ありません」
「シャッテンもへばってるじゃん」
「へばっていません」
否定するシャッテンに、ナハトは私を見て呆れるように笑う。
「あはは……でも本当2人とも凄いね、私、体力ないなぁ」
「個人差あるんだし、仕方ないない。目的は体力と筋力アップなんだから」
まぁ、そうなんだけど、永遠に追いつけないかも、足を引っ張るかもっていう不安がどうにも拭えない。
「うん……」
5分しかない休息時間、水分補給とタオルで汗を拭いてからミーティングルームに急ぐ。
「このあとなんか勉強するのかなぁ」
「当然でしょう、時間も限りがありますから。武器の扱い方、APRについてもまだまだ不明です」
「うん、そうだね」
武器の扱い方……APR殲滅チームを結成してからまだ一度も武器を握ったことがない。まずは体力増強が第一なのかな。
ミーティングルームに入ると、永嶋司令がボードの前に立って誰かと話している。
腕が丸太なんじゃないかってぐらいムキムキで、警備員の制服が窮屈に思えるおじさん。
「城戸、調査は難航中か?」
「あぁー東セキュリティ会社に乗り込みたいが、あそこはAPRがたくさんうろついてる。主に小型タイプがな、爆発しないとも限らないだろ、あそこらへんビルばっかで被害もかなりだ」
「そう、か」
「んなしょげた顔するなよ、部下が比較的綺麗な状態で機能停止しているAPRを奪取したんだ。あとで解体して詳細が分かれば報告書を送る。お、例の新しいチームか?」
私たちに気付いたおじさんは、汗だくで疲れ切った姿に眉毛をこれでもかと歪めていた。
「まだ未成年のガキ、しかも女の子、こんな奴らにあのロボット共とやり合えるのかよ、事態は大事だってのに」
「は?」「はぁ?」
2人の声が揃う。
「城戸、いいから調査を頼む」
「はいはい、緊急事態だから女子供にすがるしかないもんな。結果残してからでかい顔しろよ」
なんだか高圧的な人。
おじさんが出ていくまでずっと2人は睨み続けていた。
「気を悪くしたらすまない」
「めちゃくちゃ悪い、なんですかあの筋肉ダルマ」
「ほんと失礼な方です。見た目や性別だけで判断するなんて、あんな人会社に悪影響です」
2人の不機嫌な言葉に、永嶋司令は帽子の鍔を掴んで深くかぶる。
「同期なんだ、横柄だが優秀な警備員だ。今はAPRの調査を担当している。関わることもあるだろう……今はとにかく訓練と知識を重ねるしかない。切り替えろ、席につけ」
結果を残さないと、誰も認めてくれない。
ガードテクノロジー社は男性社員が9割だって先生から聞いたことがある。残りは事務とか開発チームの社員。
私たちって存在だけで舐められているのかも……――。
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