第1部 残骸都市

第1話 暴走

 都内某所、天気は晴れ、雲も少ない水色がビルの隙間から狭く見えた。

 1週間分のご飯を買いに外を歩く。

 高い建物と時々緑の都市をこれまで何百万歩と重ねてきたんだろう。


 急速に様変わりする日々の中をふらふら歩き、私は高校卒業後の進路について考えなきゃいけない地点にやってきた。

 なんだろう、大学に行って、企業に就職する……多分。

 ざっくりとしか思いつかないし、描くことすらできない。


 私はふらふらと歩数をただ足すばかり。


 ふと見上げたビルに貼りつく巨大な広告塔には、角張ったロボットが未来を語っている。

 東セキュリティ会社……オートパトロールロボット。

 最近至る所で見かけるようになった。

 角ばった見た目で単眼レンズと、節足動物みたいな脚が4つ。

 博物館、空港、競技場と多くの人が集まる施設に導入されているみたい。

 最初は大きくて怖い感じがしたけど、日が経つにつれて慣れてきちゃった。

 たまにレンズと目が合う、その時はジッと私を見ていて、どこか可愛い機械音が鳴る。

 最近のちょっとした癒しかも。


 スーパーを前に、私は鞄からスマホを……、


「あ……」


 取り出したいのに、ない。

 充電器はあるけど肝心なスマホを忘れてしまった。

 あぁ靴箱の上に置いてきたんだ、と今思い出してしまう。

 せっかくここまで来たのに、帰りはバス、なんて計画も一瞬で崩れてしまう。

 仕方ない、戻らないとお金ないし……。

 また無駄に歩数を足してしまう。

 美術博物館前の公園、緑が多く、ベンチに腰掛ける人や遊具で遊ぶ家族も見かける。

 賑やかな休日の道を手ぶらで歩く。


『giggigigi』


 変な電子音が聴こえた。

 周りを見ると、みんなも辺りをキョロキョロしている。

 今度は美術博物館から、甲高い悲鳴が聞こえた。


「え、な、なに?」


 ガラスや壁が砕ける衝撃音と揺れに足元が竦んだ。

 一瞬にして、騒然となってみんなが逃げだす。


 わ、私も、逃げなきゃ……。


 美術博物館に立ち込める茶色く濁った煙。

 薄っすら黒い物体の影から目線を外せない。


 足がふらついてうまく歩けない……。

 地面を抉る鈍い揺れと、不気味な電子音。


『gigiggigiigigi.gi』


 オートパトロールロボットが、レンズの周りを赤くさせて、左右にある四角い箱からバチバチと火花を散らす。


「な、なんで……ロボットが」


 美術博物館から逃げ出す人をレンズが捉えた。

 四角い箱から細い二又が飛び出す。

 逃げる人の背中に向かって、稲妻のような光を発射。

 重い絶叫に私は腰を抜かした。

 痺れながら倒れ込み、何度か跳ねたあと動かなくなる。


「あぁ……あぁああ……」

 

 レンズが私をジッと見つめ、二又の中央でバチバチと火花を散らせながら迫り、恐怖心を煽る。

 

『miaiiaiaiaraaaba』

「や、や、やめ……て」


 まだ何も、分からない。

 私は、まだなにひとつ、夢を見つけてない……。


「撃て!!」


 破裂した甲高い音が連続して鳴り、私は咄嗟に耳を塞ぐ。

 ロボットの体に穴が無数に開いた。

 穴から真っ赤に淀んだ光が放射状に漏れる。


「ほら、立てるか? 急げ!」


 言葉を返す暇も与えられず、私は誰かに抱えられて大きな車に乗せられた。

 屈強な人達で、映画や海外のニュースでしか見たことがない銃を持っている。

 皆、片目が赤い。

 車が急発進して、どこかに走り出す――。




 激しい揺れと、ガスの破裂とは比べ物にならないほどの爆音が聞こえた。

 車体もガクン、と縦に揺れ跳ねてしまう。

 後部座席は窓がなくて、何も見えない……。


「クソッ爆発したのか?」

「分からない……でもそうだろ、APRが他にも何台か、仲間も巻き込まれたみたいだ」

「クソ、最悪だな。赤い光か……」

「君は、体調はどうだ?」


 抱えてくれた男の人が優しい口調で訊いてくれた。

 怖いぐらい真っ直ぐな瞳。


「は、はい……」


 心配してくれているのに、喉も手足も震えていてうまく答えられない。


「俺は永嶋。我々はガードテクノロジーの社員、所謂警備員だ。君の体調が良くなり次第家に送る。まずは一緒に本社に来てほしい」

「……はい」

 

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