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春麗宮に行くと既に侍女達が荷物を並べてくれていた。先ほど着いたばかりだというのに仕事が早いものだ。


「麗凛様、お疲れ様でございます」

「ええ。もう荷物は片付いたのね。ありがとう」

「はい!夜には確か宴がありましたよね?もう少ししたら準備しましょうか」

「そうね」


暇だし、宮内を見て回ろうかしら。

上級妃に与えられる宮はとても広い。部屋数も多いし広大な庭園まである。宮内を全部回ろうと思ったら1日暇をしないくらいだ。


「麗凛様、どこに行かれるので?」

「少し宮内を見て回ろうと思っただけよ。貴女達は自分の荷物でも片付けてらっしゃい」

「分かりました。ありがとうございます。お早めに戻ってらしてくださいね」

「分かったわ」


庭園に出て、川にかかる橋まで歩く。太陽の光で水がキラキラと光っていてとても綺麗だ。しばらく川を眺めていると声をかけられる。


「麗凛?」

「あら…皇太子殿下。どうされましたか?」

「いや、ただ様子を見に来ただけだ。それと今まで通りの呼び方で構わない」

「では琉阿惇様。私はここで川を眺めていましたの。とても綺麗ですね」

「そうだな。淑妃とはもう会ったか?」


水恋妃?まだ彼女とは会っていない…というか、まだどの妃とも会っていない。


「まだですよ?」

「そうか。では宴の時に話してやるといい。お前に会いたがっていたぞ」

「嬉しいですわ」

「それは良かったな。では私はここで失礼する。夜の宴でまた会おう」

「はい」


一度頭を下げて、宮に戻ろうと振り向くと瑠璃が待っていた。どうやら琉阿惇は彼女が待っていることに気付いていたらしい。


「麗凛様、そろそろ準備を始めましょう」

「分かったわ」


二人で宮の中に戻る。もう侍女達は準備を済ませていた。私の象徴は青であるため、彼女たちは水色の衣を着ていた。

あれよあれよという間に私の準備も終わった。青い衣を着て、簪を付けられ、軽く化粧をされる。


「麗凛様、お綺麗ですわ~!」

「ええ!」

「髪色とよく合っていますね」

「麗凛様には誰も敵いませんわね!」

「そうですね」


 みんなが口々に褒めてくれる。瑠璃も「お綺麗ですよ」と言って冠を付けてくれた。

ちなみに私の専属侍女は侍女長の明玉ミンユー藍藍ランラン魅音ミオン暁華シャオホア雪林シュリン、そして瑠璃ルリだ。みんなおしゃれ好きでとても可愛い。


コンコン

「貴妃様、宴の時間です。準備が出来ましたら宮殿までお越しくださいませ」

「分かったわ。ありがとう」


ちょうど準備が終わったところに宦官が来た。恐らく皇帝付きの宦官だろう。


「行きましょう。明玉、それを持ってきてくれる?」

「はい」


それ、とは妃達がそれぞれ親しい者や親しくなりたい者に渡すプレゼントのことだ。私は刺繍が得意であるため、それぞれ渡す者に合わせた刺繍をハンカチにした。

 渡そうと考えているのは次代の上級妃(私以外)の三名、両陛下、皇太子殿下の合計六名だ。上級妃達はみんな幼い頃から会っていたりするため面識がある。

きっと他の上級妃達も同じような人に渡すだろう。


 後宮から出て、宮殿の中に入るとさっきとは別の宦官が会場まで案内してくれた。

身分の低い者から入るため、既にたくさんの女官や侍女、宦官、武官、妃達などがいる。

歓迎の宴は特別な事情がない限り、全ての者が絶対参加だ。


私が席に着くと皇族が入ってくるため頭を下げる。私があまり低く頭を下げてしまうと他の人はもっと頭を下げないといけなくなるため、少し頭を下げるくらいにする。

私の礼を見た後で位の高い者から頭を下げていく。


全員が頭を下げ終わったところで皇族が入ってくる。皇族に一番近い席である私の横を通りすぎたところで、お声がかかった。


「頭を上げてくれ。…この度、新しく妃達が後宮に入った。我らはみなを歓迎する。今宵は宴だ。一晩限りではあるが楽しんでくれ」


皇帝からのお言葉が終わり、妃達を代表して私が挨拶する。


「この度はこのような素敵な宴に招待して頂きありがとうございます。わたくし達上級妃は一番位の高い妃でごさいます。これから皇家の皆様のお役に立てるよう、尽力致します」


私がそう言ったところで上級妃はその場で皇族の方に向かって立ち、一度頭を下げた。


「うむ。ではみなの者宴を楽しんでくれ」


 さて、これから宴が始まりますね。料理が運ばれてきたためそれぞれ食事をしたり、自分より位の高い者に挨拶に行く。このようにたくさんの人が集まる時には暗黙の了解で自分より一つ上の位の妃に挨拶に行かなくてはならない。


私の所には中級妃九名と他の上級妃が挨拶に来る。

中級妃の挨拶に応え、今度は上級妃だ。挨拶周りというのは結構大変だ。お互いに。


「お久し振りでございます、麗凛妃。再びお会い出来てとても嬉しく思います。後日お茶にお誘いしても宜しいでしょうか?」

「お久し振りですね、楼春妃。お会いするのは数年振りでしょうか?お元気そうで何よりですわ。もちろん、お茶にお誘い頂けたら嬉しいわ。これからもどうか仲良くしてくださいまし」

「はい!」


楼春妃は黒髪黒眼であまり表情が動かないですが、とても優しい方です。


(無事に上級妃になれたようで良かったわ。またたくさんお話出来るかしら?)


 私と琉阿惇は幼なじみと言ったが、他の上級妃達も合わせた四人は幼なじみである。

私達上級妃は皆一つ違いで、楼春妃は最年長である。


「あ、それと麗凛妃。これを」


そう言って渡してくれたのは、楼春妃の実家が特産としている染色布だ。楼春妃の実家に代々伝わる特殊なやり方で染色した、他の人には出せない独特な染色布である。

 皇室御用達にもなるような商品で私も衣を仕立てて貰う時、愛用していたためとても嬉しい。布の大きさからして帯を作るのに良さそうだ。


「ありがとうございます、楼春妃。とても嬉しく思います。私からはこちらを」


淑妃には象徴色の白、徳妃には象徴色の朱、そして賢妃には象徴色の紫を使った糸で刺繍したハンカチだ。

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