第一章

1-1

瑞珠華国。それはかつて戦争を続けていた五つの国のうち、瑞と言う国がまとめ、統一したことで大陸一となった国。その際皇帝は側近であった珠家と華家と共に戦争を終わらせた。そのため五つの国を統一した時、かつての皇帝はそれぞれの家名を取り、瑞珠華国へと国名を変えた。


これは、その瑞珠華国の二大貴族、華家に生まれたとある少女の話。



◇◇◇

私、華麗凛が生まれて5年が立った頃。私は後宮の貴妃候補になった。二大貴族と言われる我が家はかつて、皇帝陛下と共に五つの国を統一した。その時に我が家のご先祖様は多大なる功績をあげたということで、珠家と共に二大貴族となった。

 珠家と華家は皇太子と年の近い子が生まれた場合、必ず後宮に入るという決まりがある。それは大きな権力を持つ二家が妬みや嫉妬で攻撃されることのないように、後ろには皇族がいるのだと抑止力になるためだった。


 珠家と華家。どちらかというと華家の方が権力がある。皇后を多く出しているからだ。

私は現在18歳、皇太子殿下は23歳と歳が近い。私は今代の貴妃見習いとなった。見習いと言っても、殿下がまだ即位していないから「見習い」というだけであって、貴妃になることは確定だ。

そういうわけで、私は今日…というか今、後宮に向かっている。一度後宮に入った以上、直ぐには出られないだろう。もちろん、皇帝陛下か皇后陛下のどちらかの許可があれば一時期に出ることは可能だ。


 私は幼い頃から貴妃になることが決まっていたため、後宮には何度も出入りしたことがある。殿下とは幼なじみだし、両陛下との関係も悪くない。

……長々と考え込んでしまったが、私が言いたいのはただ一つ。



「ーー後宮に入りたくない…!」


ただそれだけだ。それだけなのに…


「無理ですよ、麗凛様。今更どうにもなりませんから、取り敢えず座ってください。馬車の中で立つと頭を打ちますよ」


そう言って、即否定してきたのは瑠璃ルリ。私のお付きの侍女の一人だ。幼い頃に私が拾い、助けたために忠誠を誓ってくれている。だけど…冷たい!ハッキリ言い過ぎよ…!そんなところも可愛いけどね!

 私の専属侍女は全部で6人。妃にしては少ない方だが、有能で信頼のおける者を選んでいるから大丈夫だ。瑠璃以外の子達は別の馬車で来ている。


「だって瑠璃。妃になったら自由がなくなりそうだと思わない?私は自由でいたいの。もちろん、やるべきことはちゃんとやるけれど…」

「それは存じておりますが…そんなにやりたいことでもあったのですか?」


お父様やお母様は私を愛してくれているため、それなりに自由はあった。だけど私は自由でいたい、というよりも何かに縛られるのがいやなのだ。


「それは特にないけどね?強いて言うなら刺繍を売ってみたいわ」

「…麗凛様は皇后陛下と仲が宜しかったですよね?許可を頂いてみては?…なんてーーー…」

「それだわ!ええ、そうしましょう!」


いいアイディアね。私には思い付かなかった。


「え!?冗談のつもりだったのですが!」

「あら、そうなの?まあいいじゃない。いいアイディアだったわ。そうと決まれば…急いで後宮に向かってちょうだい!」


御者に言って急いで貰う。後宮に入るのは位の低い妃からだ。先に入り、後から来る妃を出迎える。近い内に皇帝が変わる筈だが、皇后候補はまだいない。つまり、私は新しい妃達の中で一番位が高く、一番最後に後宮に入るわけだ。


 上級妃四名、中級妃九名、下級妃二十七名が新しく後宮に入る。位が低くても寵愛される可能性はあるが、皇后にならない限りいくら寵愛されていても位は変わらない。

私は皇太子殿下と仲はいいが、別に皇后の座を狙っているわけではない。だから私は皇后争いの中に入るつもりはない。好きなことをして、やるべきことはやって、出来るだけ自由に過ごしましょう。




 後宮に着き、宮殿を見るとすでに妃達が集まっていた。上級妃の出迎えの場合は妃だけでなく、両陛下や皇太子殿下まで集まる。馬車から降りるとまずは奥まで歩き、皇太子殿下、その後両陛下の順に挨拶をする。一挙手一投足を見られ、一つの失敗も許されない。位が高ければ高いほど高い教養を求められる。


 誰もが私を見定めようとする中で私は馬車から降り、堂々と前を見て歩いた。シーン…と静まる中で私が歩く音だけがコツ…コツ…と鳴り響く。私は自分の立ち居振舞いに自信があった。それだけの努力をしてきたから。努力は必ず報われるというけれど、私はそう思わない。努力が必ず報われるのならこの世界は超人だらけだ。誰もが優れていて、個性なんてない。

 でも、私は結果が出るまで努力し続けた。だから自分の立ち居振舞いには自信がある。権力にあまり興味はないけれど、少しでも面倒がなくなるように存分に私の努力の成果を見せるわ。


前を向き、柔らかく微笑み、真っ直ぐに歩く。私が歩いた所からは、ほぅ…と感心するような溜め息が聞こえてくる。ようやく皇族の方々の前までたどり着いた。腕を顔の前まで持っていき、頭を下げる。


「頭を上げてくれ。…久しぶりだな麗凛。よく来た、今日はゆっくり過ごせ。これから貴妃·麗凛妃として宜しく頼む」

「お久し振りでございます、皇太子殿下。お会い出来て嬉しく思います。こちらこそ宜しくお願い致します」


それからもう一度頭を下げ、今度は両陛下の元へ向かう。


「楽にしてくれ、麗凛。我らも会うのは久しぶりだな。息災だったようで良かった。これからも長い付き合いになるが琉阿惇と共に宜しく頼む」

「お久し振りですね、麗凛。わたくしも貴女と再び会えてとても嬉しく思います。これからも仲良くしてくださいね」

「勿体なきお言葉。ですがとても嬉しく思います。ふつつかものですが、少しでも両陛下のお役に立てるよう尽力致します」


お二人が優しく声をかけて下さったので頭を下げ、貴妃に与えられた宮へ行く。見習いではあるが、普通の貴妃と同じ扱いだ。

 上級妃は宮、中級妃は棟、下級妃は部屋を与えられる。お付きの者はそれぞれの宮や棟に部屋を用意するか、皇帝に部屋を用意して貰う。私の侍女達は私の宮に部屋を用意している。

 宮の名前は貴妃は春、淑妃は夏、徳妃は秋、賢妃は冬にそれぞれの名前が一文字入る。貴妃である私の宮は春麗宮しゅんれいきゅうだ。


…と、余談はここまでにして早く春麗宮に行きましょう。夜は新しい妃達の歓迎の宴があるわ。

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