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「これは…ハンカチですか。とても綺麗な結晶ですね。私の象徴する季節が冬だからでしょうか?大切に使わせて頂きます。ありがとうございます!」

「こちらこそ。でも喜んで頂けたようで何よりですわ」

「ええ。では失礼しますね」


楼春妃が戻っていくと今度は徳妃·莉花妃がやってきた。


「お久し振りですね、麗凛妃。お会い出来て嬉しいです」

「お久し振りね、莉花妃。私もお会い出来て嬉しいですわ」

「あの、私も後日お茶にお誘いしても宜しいでしょうか?」

「もちろんですよ」

「はい!私からはこれをどうぞ」


莉花妃は私達の中では最年少です。彼女からは琵琶の楽譜を頂きました。私からもハンカチを渡します。


「ありがとうございます。たくさん練習致しますわ。私からもどうぞ」

「ありがとうございます!私は紅葉ですね。可愛らしいです!」

「それは良かったわ」

「はい。それでは」


そして最後に淑妃·水恋妃がきました。水恋妃は私と同じく二大貴族の珠家出身で、現皇后陛下の親戚です。


「麗凛妃、お会い出来て嬉しいですわ。これからも仲良くして頂けると嬉しいです!」

「こちらこそお会い出来て嬉しいですわ。私も仲良くして頂けると嬉しいです」

「ええ。私もお茶にお誘いしたらきてくれますか?」

「ええ」

「こちらをどうぞ」


水恋妃からは青の飾りがついた簪を頂きました。簪の飾りは珠家の特産品です。腕のいい職人が珠家には多いので。


「ありがとうございます、とても綺麗ですね。私からもどうぞ」

「私は風鈴ですね。涼しげで綺麗です!ありがとうございます。では失礼しますね」

「ええ」


ふぅ。少し疲れたわ。三人とも妃モードだと違和感がすごいわ。普段と話し方が違うから。私も人のこと言えないけど。今度は私が挨拶に行く番ね。


両陛下や皇太子殿下に挨拶をするのは私だけだ。最上位であるため私が挨拶に行くが、皇后が出来たら私は挨拶には行かなくなる。


「両陛下、及び皇太子殿下にご挨拶申し上げます。」

「先ほど挨拶をしたんだ。堅苦しい礼はいい」

「ありがとう存じます」


「麗凛…妃。妃達とも挨拶を終えたようだな。どうだった?」

「皆様、お変わりないようで安心しましたわ」

「それは良かった。先ほど妃達に茶を誘われていたが、私も参加してもよいか?」


琉阿惇は皇太子である上に即位前で忙しい筈なのだが…


「お時間があるようでしたらわたくしは構いません」

「そうか。では日程が決まり次第私にも伝えてくれると助かる」

「分かりましたわ。……皇后陛下」

「あら、どうしたの?」


さっそく、私が自由に過ごすために許可を取っておかないと。


「内密にお話したいことがございます。といっても、わたくしの私的な話ですが…お時間がある時に聞いて頂けないでしょうか?」

「構わないわ。わたくしも麗凛とお話したかったもの!」

「感謝致します。それから皆様、宜しければこちらをどうぞ」


恐れ多くもあるが、プレゼントは妃相手であろうと皇族相手であろうと同じような物と決まっているため、妃達よりも豪華な刺繍をしたハンカチをお渡しする。


「おお。素晴らしい刺繍だな。麗凛、感謝する」

「とても綺麗で繊細な柄ね!嬉しいわ」

「私も嬉しい。ありがとう」

「そう言って頂けて嬉しく思います。ではそろそろ失礼致します」


そう言って下がろうとしたが、皇帝に呼び止められた。


「待て、麗凛」

「はい、何でしょうか」

「先ほど芳蘭に話したいと言っていたことだが、我も聞いてもよいか?」

「はい」

「では我も聞かせて貰おう。呼び止めて悪かったな」

「いえ。失礼致します」


別に聞かれて困る話でもないから構わないが…失礼ながら皇族の皆様はお暇なのですか?と問いたい。私から言い出したことだが。



挨拶回りが終わるとそれぞれ談笑したり、部屋に戻ったりし始めた。位の高い妃と親しくなりたい者は残って話しかけに行ったりしているようだ。


「瑠璃」

「はい」

「これを部屋に持っていってくれる?レン達に頂いたの」

「かしこまりました」


恋レンというのは水恋妃のことだ。私達は幼なじみで仲が良かったため、私的な場ではお互いの名前から一文字とったりして呼んでいる。

 私はレンリーシュンと呼んでいるが、彼女達からは様付けだったり呼び捨てだったりする。


(特にすることもないし、そろそろ宮に戻ろうかしら?)


「皇帝陛下。わたくしはそろそろ失礼致します。本日は宴にご招待頂きありがとうございました」

「ああ。道中疲れただろうからゆっくり休め」

「お気遣い感謝致します」


たくさんの建物が並ぶ後宮の中でも、最も大きく豪華な春麗宮に戻る。


「あら?麗凛様、もうお戻りになったので?」

「ええ。湯浴みの準備をしてくれる?」

「もう出来ておりますよ」

「あら、助かるわ」


湯浴みを終えたら就寝まで少し時間がありそうだから、お父様達に手紙を書きましょう。



いつもよりゆっくり湯浴みをした。湯浴みからあがったら椅子に座り紙とペンを持ってきて貰う。


「貴方たち、華の屋敷から届けて欲しいものなどない?お父様に手紙を書くのだけど」

「麗凛様は何か届けて頂くのですか?」

「ええ、多めに布をお願いしようと思っているわ。お忍び用で……」


衣を作るために。だが、残念ながら麗凛は刺繍はプロ並みなのに裁縫技術は皆無だ。本人は出来ると思っているが。


「で、でしたら私の裁縫箱を届けて頂きたいです!」


そう言ってきたのは暁華シャオホアだ。彼女は裁縫が得意で麗凛に教えていたため、麗凛の裁縫技術が残念なことを知っている。麗凛は裁縫をしようとすると針で手がズタズタになるのだ。

 暁華以外の侍女達も麗凛が裁縫を出来ないのは知っているが、暁華のように何度も見たことがあるわけではない。


刺繍は出来るのに裁縫は出来ないというレベルでないのはなんとも不思議な話である。

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