第4話
マネージャーのこんな運転にも酔わなくなってきたのは、芸歴のおかげだろう。彼の運転は俺の三半規管を存分に成長させてくれたらしい。楽屋に入って、メイクや衣装合わせをされる。鏡に向かって思いっきりの照れ隠しの微笑みを練習がてら浮かべれば、スタッフが被弾してしまった。 その後スタジオに通されて、本日の共演者を紹介された。久しぶりに会ったはずなのに、最近会った気がするのは姉さんの所為だ。
「今日はよろしく。星弥」
「わぁ、こちらこそよろしくね! 翡翠くん」
そう、今回の仕事はファッション雑誌の撮影とインタビューで、モデル兼俳優の「美園 翡翠」とアイドルの「美空 星弥」の特集である。テーマは『¿COOL OR CUTE?』とのことで発行後には人気投票をする読者参加型の一大企画である。
「それじゃあ、撮影するから二人とも準備してね」
カメラマンの掛け声によって一気に緊張が走る。いくらコイツが気にくわないからと言って仕事を蔑ろにするわけにはいかない。「よろしくおねがいします」とユニゾンになってしまった挨拶と共に撮影が始まった。全くもって対照的な二人を一枚の写真に納めるには難しいようで、カメラマンも苦戦しながらボクらに注文をしてくる。
「二人ともちょっと絡もうか」
お互いの空気がぴしりと凍るのが分かる。あくまでも二人の間だけだが。
「だって、翡翠。王子らしく俺に跪けば?」
「星弥は姫らしく寝てればいいんじゃないかな」
小声で牽制しあえば、各々のマネージャーは空気をいち早く察知したようで休憩を申し入れた。
「美園は珈琲でいいですね?」
「星弥はココアでいい?」
マネージャーたちは溜息を吐きながらスタジオを後にした。カメラマンも詰まっていたため、いいタイミングだったらしい。撮影背景も変更するらしく、隣の控室に行くよう指示された。
時計秒針がカチカチと二人だけの部屋に響く。どちらも口を開く気はないのか、マネージャーから渡された飲み物に口を付ける。
「あっま」
思わず声をあげてしまったのは俺だった。もとから俺は甘党じゃないから、ココアよりは珈琲派だ。長年マネージャーやってるくせにまだボクの言葉を鵜呑みにするのか。
「まだ、そんな正反対なキャラ作ってるの?」 「煩い、俺はこれで売れてるからいいんだよ。お前だって他人の姉に手を出そうとするような外道だろ、何が王子様だ」
「僕は君のお姉さんに手を出すというより、自分の従妹を愛してるだけだけど」
「どっちもどっちだろ」
そう、コイツ「美園翡翠」は俺の従兄弟である。つまり姉さんにとっても従兄弟なわけだけど......俺がコイツを好かない理由は数えきれないが、 最もな要因は姉さんを狙っているから。俺にとっては王子様でも何でもない、ただの害虫だ。
「彼女も凄くこの雑誌を気にしていたから、成功させないといけない」
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