第40話
第4章 百鬼昼行燈
(10)
百鬼夜行とは、深夜に徘徊をする鬼や妖怪の群れ、および彼らの行進を表したものである。
つまり、深夜でなければその能力や存在感を発揮することは出来ない。まだ明るい昼の時間、まして大勢が集まる会場の中では、無用の長物だと言える。いかに狂骨季彦が、妖怪を手繰り寄せる技術に長けていたとしても、やはり明るい日中では昼行燈と同じことだった。
百鬼の妖怪どもは無視されることでおのれの心の醜さが身に染みてしまい、泣きながら闇の世界へと吸い込まれていった。
レイの心からの祈りとサエコのダンシングフラワー波、そしてケンタロウの念、それらが絶妙にからみあいながら断然の効果を発揮した。直線に入るとシックスペンスが一気に先頭に立ち、突き放した。そしてコスモブッドレアはズルズルと後退していった。さらには、アレグロブリランテが2着に粘り込んだ。そのままゴールした。
狂骨季彦は敗れ去った。
1番人気のシックスペンスが勝利し、9番人気のアレグロブリランテが2着。馬単の配当は73.4倍だった。アカケン社の4人(プラス1人)は7000万もの配当金を得た。
「うぐぐぐ。おのれ~~このままじゃ済まさないぞ。眼にものを見せてやる」狂骨は悔しさをあらわにした。
喜びにあふれる輪の中から離れ、利馬委がそっと狂骨の傍へと近づいた。
「狂骨先生。あなたはこんなところで若い者たちの嫌がらせをしている場合じゃないと思います。わたしは貴方の大フアンなんですよ。近頃は審査員だとか舞台や映画とか、本来の小説から離れていらっしゃる。かつてのように、小説に本気で取り組んでいただけませんか? まだまだ老いぼれている場合じゃないですよ。傑作を心から期待しております」
「ああ……あううう……昔のように書けたらいいのだけど……もう、私の時代は終わったんだよ」
「馬鹿なことを!! だからといってブラックJRAと契約するなんて……愚かすぎる」
「そう……かもしれない。でも、お金も要るし……」
「あなたなら出来る絶対に。まだまだ大ヒット小説が書けますよ。期待していますから」
「ううう、そうか。そう言ってくれるのか。わかったよ……なんか書けそうな気になったよ」
「頑張ってください。応援してます!」
狂骨はヒッテラーに肩を抱きかかえられて退場した。
「御徳川さん、本当に今日はありがとう」レイがあらためて李馬委に礼を言った。
「あ、いえ。レイちゃんのためなら火の中水の中。どうってことありませんよ。大事なフィアンセだし」
「ちょっと、ちょっと待ったあ~~。レイちゃん。こいつと結婚するの? 本気なの」
「なんだ君は、二人の世界に水を差さないでくれたまえ」
「なんだとう~~よし、決闘だ。オレと勝負しろや!」
「フッくだらない。君とわたしじゃ勝負するまでもない。おとなしく身を引きたまえ」
「なんだとう! この野郎」
「やんのかこら!」
二人は一触即発の状況となった。
「喧嘩をやめて!!ワタシのために争わないで~~」間に入ってレイは必死に二人を止めた。
「お取込み中、失礼ですけども」サエコが割って入った。「さっきあの小説家と話してた、ブラックJRAっていったいなんのことかしら?」
3人は争いを止めた。利馬委が答えた。
「世の中の仕組みを色々と調べるのが好きで、わたしレイちゃんとのお付き合いを始めるにあたって、調査をしました。すると浮かび上がってきたのが、闇の裏組織ブラックJRAなのです。この組織の歴史は古く、表JRAが発足してからおよそ2~3年ほどで立ち上げられたようです。この闇の組織は、競馬に関わる不正や公序良俗を汚すもの、あるいはノミ行為などを手段を択ばずに解体・排除するためのものです。悪質な有料予想家なども標的にしています」
「……そうだったの。あたしの思い違いというか……浅はかだったわ。そんな大事な情報すらも知らずに、今日まで戦っていたなんて……」サエコは神妙な顔つきで腕組みをした。
「御徳川さん、わたしたちの明るく健全な未来作りの会に入っていただけないかしら?」
「そうですねえ。考えてみましょう」
「ぜひ」
「いらん。お前なんか来なくていい。社長~~。オレもっとパワーアップするから~~」ユウジが泣きながら訴えた。
続く
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