第38話
第4章 百鬼昼行燈
(8)
「さあ、小説家オヤジが放った技を、右から左に受け流すんだ~~!」
それは時間にすると、コンマ何秒かのやり取りだった。ユウジが切り出した先頭をゆくジャンカズマを引きずり下ろすべく想念に対して、狂骨季彦はそれを受け止め、反射するためのよこしまな技「逆に~逆に~邪念」を放ったのだ。中年男の恐ろしいまでの執念が垣間見れる技だった。
「オンモラキアンソワカギャクニーギャクニーコノウラミハラデオクモノカー」
ある意味、オブラートに包み込んでいた呪詛にあふれた呪文さえも、今やその意味を包み隠さずに発していた。
「そんなもん、まともに受けるか~~」
すかさず、ケンタロウたち4人は狂骨に対して右向きに身体を傾けた。
「右から来た呪詛を~左に受け流す~~」
「右から来たアレを左に受け流しますです~~」
「右から来た変な奴を左に受け流すぜ~~」
「右から来た災いを左に受け流す~~」
すると、ジャンカズマは徐々に失速していった。そして単勝馬券を買った狙い馬ワープスピードは徐々にスピードを上げていった。まるでワープするかのようだった。
「グギギギギギギ……。お前たちはとうとうわたしを怒らせたようだな。どうなっても知らんぞ。若造どもが……」
「小説家がなんか言ってんぞ。どーする?」ユウジが狂骨の変化に気づいた。
「ほっとけよ。もはやどうすることもできないだろうよ。へへへ。いい年をしたオヤジが馬鹿め!」
ケンタロウは自分の狙い通りになったことで寝不足の疲れも忘れ勝ち誇っていた。
「ほんとにそうかな。社長も不安めいたことを……」
「あ。あれはなんですの?」レイがいち早くそれを見つけた。
場内にはただならぬ雰囲気が充満していた。狂骨がこれまでにはなかった不可思議な呪文めいた言葉を発した。
「チミモウリョウオンモラキンパツダケハエエデミソシルノンダナラワスレチャナラネ……」
すると、場内の隅っこという隅っこから得体の知れない妖怪たちが顔をのぞかせた。きょろきょろとその眼を動かして場内を見通した。それからはわらわらと、おびただしい数の妖怪たちが姿を現した。その姿が視えているのはどうやらあの小説オヤジとアカケン社の4人だけのようだった。しかし、その妖怪たちはどんどんどんどんと数を増やしてゆき、やがてあっという間に百体ほどに増殖していった。その姿はおぞましい、この世のものとは思えない見にくい姿だった。
「どうだ諸君。これがわたしの心に巣くう鬼たちだ。いわゆる百鬼夜行の妖怪どもだ。さあ、妖怪たちよ、奴らのたくらみを喰らい尽くせ!!」
「いひひひひひひ~~」
「うぎゃああ~~」
「いっやああああ~~やめてええ~~~」
現れ出でた妖怪たちは、それぞれアカケン社の4人の体に次々とまとわりついた。妖怪の姿が視えてしまう彼らにとってそれは、とてつもなくおぞましいものだった。
「きんも!! なんなの~~こいつら~~」サエコとレイは泣きそうだった。
もはや4人にはそれぞれの技を繰り出す、心的余裕も身体的余裕も失ってしまっていた。そのためか、ワープスピードは失速してしまった。逆に1番人気のテーオーロイヤルがぐんぐんと伸びてきた。
「フフフ。ほうら、君たちには所詮わたしに勝てる術などないのだよ」不敵に笑う狂骨季彦。
そして阪神大賞典は1番人気テーオーロイヤルの勝利で決してしまった。ワープスピードは2着に敗れた。レースの終了とともに、百鬼の妖怪どもは巣穴へと戻ったのか、姿は消えた。
なすがままに狂骨の攻撃に屈してしまった4人は、とうとう絶望の淵に立たされた。
「……どうする、このままおめおめと引き下がるのか?」
「…………」×3人
「そんなの絶対にイヤ。なんとしても勝たなきゃアタシの人生が……いえ、そんなことよりも、これまで築いてきたものが全部終わってしまう!?」サエコが叫んだ。
「…………」×3人
「やあお疲れちゃん。助っ人が来たよ。レイちゃん、安心してちょ~~」
突然、聞きなれない声がした。振り向くと利馬委が立っていた。
続く
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