第35話
「異能馬券師ケンタロウ!」 35
第4章 百鬼昼行燈
(5)
皮手袋の親父はとてつもない邪悪さを秘めていた。ヤツが放った邪悪な波動によって、ことごとく狙った馬は失速するは斜行してよれるは、3人の祈りも守護術も全て弾き飛ばして、ことごとく勝負馬券を外された。
「ふはははは。お前たちのような小わっぱに私の術が破れると思うのか? 片腹痛いわ。わははははは」
名無しの親父は黒い皮手袋をバッテンにして3人を見下すように笑い続けた。
「くっそおーあんの野郎~~!」
「くく……まるでかないませんわよ」
「これはまずいわね。ひとまず撤退よ!!」
すたこらさっさと3人は逃げ出すことにした。
「おぼえとけ!クソ名無しオヤジ!! ちょっとそこどけや」ユウジはオヤジを躱しながら捨て台詞を吐いた。
「小悪党どもを覚えるほど脳細胞に余裕はない」邪悪親父の悪口も相当なものだった。
「ざまあ~~」ヒッテラーもヤツの後ろに隠れていて言い放った。
怒りと悔しさと惨めさとで涙して3人はS競馬場を後にした。
敗残兵となった3人は病院へ立ち寄った。ケンタロウはすでに起き上がって歩き回れるまでに回復していた。
「……かくかくしかじかなんですのよ、悔し過ぎますう~~」レイは涙ながらに語った。
サエコもユウジも顔を赤く染めて悔しさを噛み締めている。
「そんな奴が現れたとは……何とかしないと。でも、いったいどうしたら」
そうなのだ。このまま手をこまねいている訳にはいかない。皆そのことは深く感じていた。しかし奴を打ち破るには……皆目見当がつかない。
「とにかくみんなで何か方法を考えようぜ。4人寄れば千寿の知恵というじゃん」
「いや、それって『3人寄れば』だから」
「あ、そうだっけ? じゃあ4人寄れば万寿の知恵な」
「万寿の知恵?」
「万寿の知恵?」
「万寿のちえ?」
「あ~もういいから。明日はオレも行くぞ。みんなそれぞれなんか考えて来てよ!」
「病院はどうするん?」
「明日で退院するから」
「え? 大丈夫なの」
「ああほら、こんなにピンピンしてるし」
その姿を見てサエコは周りをはばかることもなく、いきなり泣き出した。
「うあああ~ん。良かったあ~~良かった~~。もしものことがあったら、アタシ、生きていけないと思ったあ~~」
「うん。良かった」
「よかったよかった」
愛しさと優しさと心強さで3人は病院を後にした。
その夜、病室のベッドでケンタロウは眠れずにいた。とっくに消灯は過ぎている。薄暗い天井を眺めながら思いを巡らせていた。
(3人が揃って全く歯が立たずに、一方的にやられるとは……相当な使い手に違いない。しかし、よくよく考えると何か違和感があるよな。いったいなんだろう……)
戦いのその場にいなかったことが、却って客観的な思考を巡らせることになった。
(レイジがまず、狙った馬以外の先頭馬を引きずり下ろす……次にレイちゃんが狙い馬に祈りを捧げる……そして社長がとどめを刺すように、狙い馬を守りつつ追尾する馬を遮断する念を送る……だけど、ヤツの攻撃は……全然違う性質を持っているかのようだ……)
突然、ケンタロウに有る閃きが舞いおりた。
(ああ、そうか。そうだ、きっとそうに違いない!!)
ようやく睡魔が襲ってきた。時刻はとっくに午前を廻っていた
続く
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