第34話

「異能馬券師ケンタロウ!」 34


第4章 百鬼昼行燈


(4) 


 ケンタロウの高まった能力というのはテレビ観戦のミーティングですぐに判明した。なんと、彼は2分後の競馬の結果がわかるようになったのだ。ほんの数カ月前までは1分半までしか視えなかったのだから、これは大きな大きな進歩だ。

 しかし、馬券の発売が閉め切られてからファンファーレが鳴り響くまでにはだいたい2分半を要する。そこからスムーズにワク入りが進んだとしても、スタートまでには1分以上は掛かる。中央競馬は最短距離のレースでも1000メートルはある。1分を少し切るぐらいのタイムが最低必要だ。つまり、馬券発売の締切りから結果がわかるまでには、どんなに最短であっても3分半は掛かる。2分足らずでは何の役にも立たないのだ。大昔のヤクザがやっていたノミ屋の中には、発走後1コーナーを回るまではまだ馬券(仮想の)を買えるなんてこともあったそうだが、令和の今ではあり得ないだろう。結局、何の役にも立たないという結論に落ち着いた。

「いや、そうは言うけどさ、進歩の過程が一番大事じゃねんの? 今回の事故で頭を打った成果だろうし、オレの傷みのおかげで進化を果たしたというのに……もっと褒めてよ、褒めたら伸びるタイプだから!」

「まあでも本当に良かった。明日も現場(競馬場)に出なくていいから、ゆっくり休んで身体を治してちょうだい」 

「いやいやいや。身体はもう絶好調だから。どこも悪いとこないから、痛っ…ううう」

 ユウジは起き上がろうとするケンタロウを押さえつけた。

「まあしばらく休んでおけ。オレがおまえの分もちゃんと活躍するから」

「なんでお前が活躍できんだよ!」 

小競り合いが続いたが、とにかく明日はケンタロウ抜きの3人で戦いに挑むことになった。ヒッテラーを倒した余裕みたいなものもあったし、みな自信にあふれていた。もちろんレイの家の忍者さんたちを呼ぶ訳にはいかない。それはサエコのプライドが許さないことであった。


次の日、3人は朝からS競馬場に集結した。

今日は荒稼ぎをするつもりではなかった。ヒッテラーに苦しめられた分の失ったお金を取り返そうというのがサエコの作戦だ。あれだけの屈辱を与えたのだから、今日は寺男は現れないだろうと踏んでいた。

しかし、読みは外れた。午前中のレースからヒッテラーは堂々としゃしゃり出てきたのだ。

「待ちくたびれたぞよ諸君。今日こそは、ありったけの力でお前たちを返り討ちにしてくれるわ!!」

「なんだお前は。またまたのこのこと現れやがって」ユウジは目の仇にした。

だが、そんなことはお構いなく東寺男は新型邪悪攻撃を3人に仕掛けるのだった。

「邪倭禍麗印怒華麗無限浄蓮波~~!!」

「ああアカン……コレは……うわああ駄目なヤツだ」ユウジは悲痛な声をあげた。

「ヤバいでございますうう……」レイも打つ手なしだった。

 そのままずるずると一般平場レースでは大幅なマイナスを喰らってしまった。不味い状況だ。

 しかし、3人はいつまでも押されてばかりではなかった。

「いつまでも思い通りになると思ったら大間違いよ。伝家の宝刀を出す時が来たわ。これでもくらえ!! 花の呼吸百の型フラワーレボリューション!!」

 サエコもまた新開発の技を放ち、東寺男の邪悪な技を押さえ付けた。

「ぐぐう……くっそうこやつら、またまたパワーアップを……うわあああ」

 東寺男はあっけなくはじけ飛んで逃げ出した。

「ふわあ、すごい社長!!これでもうこっちのもんだ」ユウジは小躍りして喜んだ。

「と、なればいいんだけどねえ」

「え? どゆこと」

 泣き喚いて逃げたヒッテラーの尻を蹴とばしながら皮手袋とマントを羽織った男が現れた。

「フフフ。私が来たからにはお前たちの悪行もここまでだ」

「え? あんた誰」ユウジが睨みつける。

「悪党に名乗る名などないわ」

「はあ、どっかで聞いたセリフ」

「喰らえ。オンモラキアウトドアアフリエイビットコインソワカ」

 その皮手袋から、ヒッテラーとは比べものにならないほどの強大で邪悪な念が放たれた。

「うわああああ~」

 3人は打つ術もなくどんどんと押されていった。



  続く



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