第33話

「異能馬券師ケンタロウ!」 33


第4章 百鬼昼行燈


(3) 


(ここはどこだ? 俺はいったいどうなったんだ……死んでるのか生きてるのか……何が何だかさっぱりわからない。暗い……真っ暗闇だし寒い……寒すぎる。このままじゃ凍え死んでしまうぞ……いや待て、もう死んでるのか? ああくっそう……もう少しみんなでJRAをやっつけたかったな。まだまだやりたいことがあったのに……)

 ケンタロウは暗闇の中にいた。そこは冷たく閉ざされた世界だった。

 声が聞こえてきた。闇の世界の中でも天高い方角からだとはっきり分かった。

「ケンタロウよ、お前はまだ生きたいのか? 次の世代に生まれ変わるていう、割とやさしい選択もあるのだぞ?」

 その声は至極明瞭で、ある意味荘厳な印象をまとって聞こえてきた。

「えっと、すみません。あなた誰?」

「わははは。そりゃわかるハズもないよなあ……私は神、神様だよ」

「はあああ……神って言っちゃうの? はっきり言うけどさ、そういのってだいたい詐欺だよね。自分もほら、若い頃何度かそういうの信じてさ、ひどい目に遭ったもん。神様を名乗るとか相当ヤバいよね?」

「はあ~~そうか……。そう思うならばそう思え。なんかどーでも良くなってきたなこりゃ。いいか、それでも聞け。このままではお前のこれまでの人生てのはほぼプラマイゼロ。可もなく不可もなく、赤点にならずに済む40点てところだ。次の人生の運勢はまあ下のやや上といったところか。それでいいなら手続きを進めるぞ。ま、しかし。特例で活かすこともできる。その場合はお前のこれからの人生は未知数である。良くも悪くも出来る未知数だ。ただ、あまり役に立たないお前の特種能力を、ほんの少し高めることくらいは出来るが。さあどうする?」

「もちろん。そういうことなら生き返らせてくれよ。俺にはまだまだやらなければいけないことが」

「そうか、そこまで言うならば仕方ない、元の世界に戻してやろう。アブラキンタマカタブラ~」

神様が唱える呪文とともにケンタロウは再び気を失った。

 

  病院のベッドでケンタロウは目覚めた。足腰がメチャクチャ痛い。だがそれほど重症ではなさそうだ。体はだいたいが動く感じだった。

「おい、しっかりしろ! やった、目覚めた」ユウジが叫ぶ姿が見えた。

「ああ~良かった」「大丈夫なの、ケンタロウ?」レイちゃんとサエコ社長もいた。

「えっと、オレどうして。ここは誰? わたしはどこ」

「うんうん。その調子なら大丈夫よね」サエコは涙ぐんでいだ。「屋根から落ちて頭を売っちゃって……アタシのせいでこんなことになって、ゴメンね」

「わたくしがあの時、あんなこと言わなければ……ですのよ」

「なにはともあれ、良かった良かった」

 まだ少し頭が痛かったが、ケンタロウは元の世界に戻れたことを素直に喜んだ。

「あ、えっと……今日は何曜日?」ケンタロウは尋ねた。

「三日三晩眠っていたから~~今日はもう土曜日のの3月16日よ」

「あーそう……じゃあ、みんなでJRAを倒しに行かなきゃ」

「待って、今日の今日は無理だから一日は休んで。その代わり、テレビ中継を観ながらここでミーティグをしましょう。あ、それよりもまず先生に診てもらって」

「いや、もうそんなのいいから」

とはいえ三日も意識がない状態なのだからそうもいかない。ケンタロウにしてみればほんの30分程度、神様とかいう奴と話していただけだったのだが、現実とは違うこの世界で回りを安心させることも重要なことだ。

医者がすぐにやって来てあれこれ検査をした。

特に異常はなかった。医者の見立ても今日一日は安静にしなさいということだった。

ケンタロウは一刻も早く、自分の能力がどれほど高まったのかを知りたい、その思いが強かったが我慢した。

(今度こそ、俺は一番役に立てるようになるかもしれない……あの神様はけっこうまんざらでもないのかも知れない……) 

そんな淡い期待に胸を膨らませていた。



  続く



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る