第31話
「異能馬券師ケンタロウ!」 31
第4章 百鬼昼行燈
(1)
「ようこそ先生! お待ちしておりました。ささ、どうぞこちらへ」
有馬毛事務総長はそう言って丁重にその男を招いた。扉の向こうではドルモゲイツ長官が待ちかねていいた。ここはブラックJRAの第二事務室入り口だった。
ぎぎぎイ~~ときしむ音を立ててドアが開いた
「おお~狂骨季彦先生、よくぞおいでくださいました」ドルモゲイツこと、土瑠藻下逸長官は笑顔で狂骨を迎え入れた。
「あの~わたしぃ~小説書くのとっても忙しいし、直樹賞の候補作とか読んで審査しなけりゃいけないし、そのお~ご期待に添えられるかどうか……」
狂骨は革の手袋をはめた手首をバッテンに組んで悩ましいしぐさをして見せた。
「ああ、いや何をおっしゃる先生。ほんの片手間で、わずかばかりの呪いを発揮していただければ……本当にそれで、結構でございます」
「フフフ。このわたしを買いかぶっていらっしゃるのではありませんか? 呪いの力を持つのははっきり言って、わたしの小説の中の登場キャラクターだけなんですよ。このわたしに現実世界でどうのこうのできる力など、あると思われますか?」
「あると思います!!」有馬毛が言った。「なぜかというとここも小説の中の……」
「おっと、それ以上は……」土瑠藻が遮ぎるように言った。
狂骨はわざとらしい二人のやり取りを見て言った。
「まあでも、わたしも嫌いじゃないんですよ。実はこういうのって割りと」
狂骨が『はッ』と皮手袋の手のひらを開いて気合を込めると、その向こう側、ブラックJRA事務室の片隅に飾られていた薔薇の花が見事に散ってしまった。3秒後には腐った残骸だけになった。
「おお~さすが!!」有馬毛と土瑠藻は歓喜した。
「この力を少々発揮すればいいという……ことなんですね?」
「もちろんです。素晴らしい、ぜひともお願いいたします。狂骨先生」
「まあいいでしょう。しかし、誰がやったのかはくれぐれも内密に願いますよ」
「それはもちろんですとも!」
「では細かい契約内容について、お聞きしましょう」
ブラックJRAの秘かな企みが始まろうとしていた。
S市内の駅近くのとあるビルの最上階にある高級レストランには、レイとその父母が着飾った姿で席に着いていた。レイは成人式以来の着馴れしない着物に身を包み、緊張ではじけそうな時間をただ耐え忍んでいた。忍者たちの姿はなかった。
「お待たせいたしまして申し訳ございません」声が掛かった。三笠江連権現大社の当主御徳川一郎だ。奥方の広子、そして次男の利馬委が後ろに続いた。ようやく御徳川家の3人が席に着いたのだ。
それぞれが簡単に自己紹介をした。利馬委というのはなかなかの男前だった。しかし、背たけはレイよりも低く160センチあるかないかだった。
「おおこれはこれは。可愛らしい娘さんですなあ」一郎がまず発言した。レイは今日はコンタクトに変えていたし化粧も濃い目だった。
「いやいや、息子さんも凛々しくてとてもたくましい方ですね」レイの父が社交辞令を言った。
利馬委はじっとレイを見つめていたが、おもむろに発言した。
「結婚しましょう! 今すぐ!!」
「あ、いや。おい、ちょっと待って。早すぎるだろう!!」一郎が掛けた声を無視して利馬委はレイの手を握ってさらに続けた。
「わたしの妻になれば一生幸せになれます。保障します。必ず大事にします。なんならこの命を捧げます。だからどうか結婚してください。お願いしま~す」
土下座するほどの勢いだった。ていうかすでに頭を床にこすりつけていた。
「お願いします~~」
「おいおい、我が息子よ。もっとちゃんとせんか!」
「いやいやいや。頭をあげてください。お互いまだ何も知らないうちにそれはちょっと」
「レイ、レイちゃんはどうなの?」
あっけに取られたレイは混乱して頭が真っ白になった。この利馬委という男が嫌いという訳でもなかったが、求婚をすぐさま受け入れる気にもなれなかった。なによりレイの中でまだ整理できていないことがあったからだ。それが自分の中ですっきり出来るまでは結論は出せなかった。
「ごめんなさい利馬委さん。今すぐそれは……無理」
「ええ~~そんなあ~~。パパ~~ママ~~助けて~~」
レイは泣き喚く利馬委をなだめるしかなかった。
続く
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