第27話

「異能馬券師ケンタロウ!」 27


第3章 進撃の虚人たち


(7) 


「なんだ、お前たち。どう見てもアルファマムを勝たせようとしてないぞ。どういうことだ?」

 はっと思い当たったヒッテラーはユウジの巨体をブリッジの体制のまま弾き飛ばした。見かけによらず相当鍛えているようだった。

「うっわあああ。何すんだこら」ユウジが転がりながら叫んだ。

「それはこっちのセリフだ。それよりも……おまえたち……図ったな!!」

「うっバレたか」ユウジは吐き捨てた。

「お前たちの狙いはアルファマムじゃない。今、好位を走る4頭のどれかだ。そうと分かれば、目にもの見せてくれるわ」

ヒッテラーは逆立ちの体形を取った。そして鬼のような形相で邪念を唱えた。「前にいる馬は全部潰れろお~~邪念最狂波!!」

 途端に暗雲が垂れ込めたかのように場内は暗くなった。好位グループの足が落ち、後方グループがすさまじい勢いで迫って来た。

「まずい、この流れは……」ケンタロウは危うさを感じ取っていた。

「紅蓮演舞花時雨~~」サエコは新たな技をくるくると回りながら披露した。それでも分が悪い。ヒッテラーの本気が、彼の凄まじい怨念の炎の方がはるかに上回り、その場を覆いつくそうとしていた。

直線に入った。ペプチドナイルはまだ4番手だ。

「ああ~これは、無理だ~」なす術もなくケンタロウは眼を覆った。

「ちょっと待って!!ですわよ!!」

 突如、レイと忍者10人衆が現れた。

「お助けしますわ~」

「おお~レイちゃん」

「よく来てくれたね。9番よ。ペプチドナイルよ~~」踊りながらレイを見つけたサエコが叫ぶ。

「やっぱりそうか、9番だったか。落ちろ~9番~~」すかさずヒッテラーがペプチドナイルを標的にする。そしてさらにその邪念は強まった。

「そうはさせませんわよ。みんな、9番に祈りを込めるのよ!! すべての想いをあの馬に!!」

 黒ずくめの忍者たちが人差し指をおっ立てて祈りを捧げた。忍と念とは同じ語源である。忍ぶ心、今の心、その二つが合わさると、とてつもない想念を作り上げるのである。レイはそのためにわざわざ引き連れて来たのであろう。10人の忍と念は、ヒッテラーの邪念をわずかながらも抑え込んだ。

 そこに、渾身のレイの祈りが炸裂した。たったの一泊二日だったが、久しぶりに実家の大札東照金毘羅神宮で過ごした時間が、本来の能力を増幅して発揮させた。

 みるみると、ペプチドナイルの足色が冴えわたる。4番手から直線一気に先頭に立った。

「行け行け!!」「そのままそのままあ~~!!」

「つぶれろ~~。うぎゃあああ」

ヒッテラーの叫びも虚しく、ペプチドナイルはそのままゴールを駆け抜けた。

「やった~やった~」「ばんざーい」4人はハイタッチで喜んだ。

「さすがあ~レイちゃん」

「良かったですわ。お役に立てて」

「それにしてもこの方たちは?」

「ええ。実家のお手伝いの方々ですのよ」

「それはそれは、ご苦労様です」忍者たちに頭を下げた。

「それはそうと、どんだけの払い戻しだろう?」

「単勝3800円だから、えっと7000万くらいかな」

「よっしゃあ~~」

4人と10忍は嬉しさを爆発させた。


「はあ、はあ、はあ、はあ……くっそう……」

一人ヒッテラーは場内の片隅で、肩で息をしていた。その眼には涙が溢れていた。

「アルマゲドラー事務総長……申し訳ございません……ドルモゲイツ長官……お詫びの言葉もございません。ブラックJRAの名を汚してしまいましたこと、お詫び……どうか……お許しを」

 ヒッテラーの脳裏には悪夢のような人生がよみがえってくるのだった。



  続く



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