第26話

「異能馬券師ケンタロウ!」 26


第3章 進撃の虚人たち


(6) 


「いい? 今日の作戦はこうよ」サエコはケンタロウとユウジを側に近づかせて小声で話した。

「まずケンタロウはフェブラリーステークスの勝利馬が視えたら、絶対にその馬の名前を言っちゃダメよ」

「え? じゃあどうやってみんなに伝えるんだよ」

「必ず一つ人気が下の馬の名前を言うこと。1番人気の馬だったら2番人気を、3番人気だったら4番人気って具合にね」

「なるほど。そうすると……」

「ヒッテラーはその馬を勝たせないように邪念を送るはずよ」

「うん。それはいいかも知れない」

「でもそんな簡単に騙せるかな~?」

「まずやってみよう。そのあとはとにかくその勝利予定馬を勝たせるべく、3人で強力な念を送るのよ。そしてあの男がブリッジの姿になったら……」

「ぶっ潰してやるんですね!」ユウジがにやりと口元をゆがめた。

「そんなはしたないこと……少しだけね」

 ケンタロウも力強くうなずいた。

 

そんなこんなでいよいよフェブラリーステークの締切り3分前だ。ケンタロウははっと目を開き、イキなり叫んだ。

「視えた~~! 勝つのは16番レイチェル・キングのアルファマムだ!!」

「え? 何い~~」

「まさか、本当に?」

「ああ、間違いない。絶対の自信だ」

「いや、あんたの自信は50%だろう」

「うるせ」

「よし、いいわ。行くわよ。アルファマム(=12番人気の一つ上、11人気9番ペプチドナイル)で全力勝負!!」

「はあ?? なんだって。アルファマムだとお? 気でも狂ったか。12番人気じゃないか」

 3人はあきれ顔のヒッテラーの横を通り過ぎて券売機へと向かった。当然ながら有り金全ツの単勝勝負だ。

「こいつは面白い。こりゃ何もしなくても勝負はもらったも同然だ。わははははは」

 ヒッテラーは高笑いをして見せた。

「まあしかし、何が来るのかわからないのが競馬だ。1番人気やルメールばかりに勝たせていては、ブラックJRAの名が廃る。とことん荒れさせるのも悪くない。その上で奴らの鼻をあかしてやる」

 3人は無事馬券を購入し終えた。もちろんペプチドナイルの単勝馬券だ。

 旗が振られた。今年初めての東京府中生演奏のG1ファンファーレだ。S競馬場内も盛大な歓声で沸いた。

「ふふふ。あと3~4分後にはそのアルファマムの馬券は紙くずとなるのだなあ~」

「うるさいよ! 寺男!!」睨みつけるサエコ。

「ひゃっひやっひゃっひゃっひゃ」不敵に笑うヒッテラー。

3人は絶対にヒッテラーに見られないように、馬券を固く握りしめた。

枠入りは各馬順調に収まった。一斉にスタートだ。

 初めに先頭に立ったのは15番ドンフランキー池添騎乗だ。軽快な逃げ足を見せた。次に続くのは14番ウイルソンテソーロ松山騎乗、人気の一角だ。そして1番イグナイター、9番ペプチドナイルと続いた。攪乱作戦のアルファマムはほぼ最後方の位置取りだ。

「うひゃひゃひゃひゃ。アルファマムは一番ビリッケツじゃないの? どした~」すでにヒッテラーはブリッジの型に異形化していた。「それ!アルファマムそのままだ、邪念狂波!!」

 ユウジは隙を見てヒッテラーの腹の上に乗っかった。

「うるさい。ドンフランキー止まれ~~スペシャルインデペンデンスビーム、ど~~ん」

 ヒッテラーのブリッジは巨漢ユウジが乗ってもびくともしなかった。

「いやあんた、今この場面で先頭馬を止めてなんか意味あんの?」

「うるせんだよ。だまって見てろ」

「……んん?」

 ヒッテラーこと東寺男の脳裏に、ある不信感が芽生えた。


  続く



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る