第25話
「異能馬券師ケンタロウ!」 25
第3章 進撃の虚人たち
(5)
その日は今年初めてのG1レース、フェブラリーステークスの開催日だった。
S競馬場には開場前から多くのフアンの長い列が出来ていた。
ルメール騎乗のオメガギネス、松山弘平のウイルソンテソーロ、ムルザバエフのドゥラエレーデなどが上位人気となっていた。いずれもダートで好成績の逸材だ。しかしながら実力は拮抗していると見られ、オッズはかなりバラけている状況であった。つまり何が来てもおかしくないというレースである。
果たして何が来るのか……今年初の最高峰のG1レースに、多くの人がまるで酔わされているかのようだ。誰もが勝って祝杯をあげられるのなら、こんな良いことはない。しかし残念ながら競馬というものは簡単には当たらない。一握りの当てた者だけが美酒を煽ることが出来るのだ。
ハナからそういう仕組みなのだから仕方がない。
今日は何としても勝たなければならない、というのはまず第一前提として、さらにサエコたちには大きな大命題があった。そう、あの憎たらしいヒッテラーこと東寺男を完膚なきまでにやっつけることだ。この先も、明るく健全な未来作りのためにはとてつもなく邪魔な存在なのだ。
そのために今日の大勝負はフェブラリーステークスだと決めていた。未勝利や1勝馬戦ごときで奴を倒したとしても、その影響力は知れたモノだろう。やはり大レースで破ってこその勝利なのだ。
まず、サエコはケンタロウに100万の帯を渡した。
「今日も気前よく負けておいで」
「やっぱり……」ケンタロウは自分に課せられたこの使命を、すこし残念な気持ちを感じながら受け止めるしかなかった。サエコの目を見つめた……明らかにその眼はうるんでいた。
(マジか、サエコさん……くっそう……俺がやらなきゃいったい誰がこれをやるんだ!!)
ケンタロウは負けることだけを考えて馬柱を見つめた。{絶対に来ない馬を見つけてやる、何が何でも絶対に外してやる!!}すさまじい執念の炎を放った。
サエコは昨夜ほとんど眠れなかった。今日の対決のために寝ずに作戦を考えていたのだ。
そのため眼はショボショボだった。眼薬を何度も何度も両目に指していた。
大札東照金毘羅神宮ではレイもまた作戦を練っていた。そうとは探られないよう、母親には迎合した素振りを見せていた。
「ねえママりん、お見合いのお相手はなんていう方ですの?」
「尾徳川利馬委さんよ。三笠江連権現大社の尾徳川さんは、お若い頃に大変ご苦労なされてようやくあのような立派なお社をお建てになられたのよ。そこはご長男の太郎さんが継がれるのだけど、ご次男の利馬委さんは、それはとてもとても」
「なんで兄弟なのにそんなにお名前が違うのかしら」
「そんな失礼なこと……レイさん!」
「とにかく、わたしは結婚なんてまだまだ10年先の話、やりたいことがたくさんあるから」
「そんなことおっしゃらないで。パパりんのお考えも少しはご理解いただかないと……」
「今ですわよ。光代!!」
ぱっと現れた光代がくるくると、ママりんの体を縄で縛った。
「あれえ~何をするの~~」
「ゴメンねママりん。わたし、どーしても行かなければならないところがあるの。ちゃんと戻ってくるから、それまで我慢してね」
「ちょ、ちょっと。レイさーん」
ママりんの叫びも虚しくレイは忍者御一行と大札東照金毘羅神宮を飛び出した。タクシー3台を呼び寄せてそれぞれに分乗した。
「待っててくださいねサエコ……さま……」
いよいよフェブラリーステークスの発走時間が近づいてきた。あと10分少々だ。
「昨日はよくもこの私をコケにしてくれたなあ。アカケンなんとかの者たちよ」
突如現れた。やはりこの男はメインレースで勝負に出てきた。
「お前こそ、いったい何の課長補佐だよ。JRAの職員なのかよ?」ユウジが吠えた。
「ふふふ。私はJRAの裏の組織、ブラックJRAの職員だ! 表の方は実はグリーンJRAというのが本当の名称なのだ。はははは」
「……なんなのその何のヒネリもない組織図って?」ため息が漏れた。
とにもかくにも、熾烈を極める戦いの火ぶたが切って落とされた……のかも知れなかった。
続く
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