第23話

「異能馬券師ケンタロウ!」 23


第3章 進撃の虚人たち


(3) 


「それはえーと、もしかして仮病……ですの?」

「何を言うか馬鹿もん!!」

「ええ~でも、すこぶるお元気そうで何より」レイが父親に真っ向から立てつくと、母親が間に入った。

「レイや、パパりんはお前のことがそれはもう気がかりで……こんなにやつれてしまって」

「いやあ、ママりん。すまんのうお前には苦労を掛けてばかりで」

「何をおっしゃるの、ううう……」

ママりんは上品に和服の袖で顔を隠して泣く振りをした。

「何の真似かよくわかりませんけど、ワタシにいったい何の用があるのですか?」

「それだよ、それ。ごほごほごほほ」

「それは要りませんので手短にお願いします」

「見ての通り、パパりんも老い先短い。由緒正しき大札東照金毘羅神宮の跡継ぎを見つけなければ死んでも死に切れん。そいでレイよ、お前にとても良い縁談があるのだ」

「お相手は見笠江連権現大社の息子さんで大変立派な方なのよ」

「いや、あの全く興味ないですのよ」

「何故だ? 何故なのだ」パパりんは身を起こして問い詰めた。

「あなたもお年頃だし……一度会うだけでもいいじゃありませんの」ママりんも応戦する。

「何と言われましても、イヤなものはイヤなのです!!」

「おおレイや、何故そこまでかたくなに?」

「まさかお前さま、他に好きな人でもいらっしゃるのかえ?」

「そんなことワタシの勝手でしょ! もう帰りますからね」

「そうか……ふふふ。簡単に出られると思うのかね? レイよ」

「え? 何、どういうこと」

「出でよ。皆のものッ」 

パパりんの声とともに天井裏と床下から忍者のような黒ずくめの男が10人ほど、姿を現した。いや、くのいち忍者も2~3人紛れているようだった。

「な、何ものですの? あなたたち」

「光あるところに影がある。まこと栄光の陰には彼らの姿があるのだ。レイよ、お前をラチする」

「え、ええ~」

レイは忍者たちに囲まれて身動きが取れなくなった。


 レイが実の父親と母親にラチされるより40分ほど前だ。

ワープスピードがいい足を見せ始めた直線で、とてつもない負のエネルギーが競馬場施設内を覆い隠した。それはサエコとユウジの力をも簡単にはねのけ、もとよりケンタロウのわずかな力などはこっぱみじんに粉砕した。それは一般の観客にさえも感じられたことだろう。どんよりとした吐き気と倦怠感を催すような黒い霧が場内全体を包んだのだ。

 ヒッテラーは3人のすぐ脇でブリッジの格好をしながら顔面を真っ赤に染め上げて、呪いの声を上げていた。

「ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレ……マケロマケロワープスピードマケロマケロハンバーグドーン!」

 あまりにも強烈な負のオーラは3人の三半器官にまで異常を招いていた。

「痛い、痛い。頭が割れるうゥゥ~助けて~~」

 ……そして、ワープスピードは3着でゴールを駆け抜けた。

 その途端、三半規管の異常はすぐに止んだ。はっと我に返ったケンタロウとユウジはヒッテラーを蹴飛ばした。

「この野郎!!」「ふざけんな!!」

ヒッテラーは二人にボコボコにされた。

「痛い痛い痛い。なにすんだよう~~」

 ヒッテラーは逃げるように走り去った。

「あ~~くそ。あんなに頑張って来たのに」

「ちっくしょ~レイちゃんさえいてくれたらあんなことには」

「レイちゃん明日は来れるのかな~~」

「う~む。今日はしてやられた。だけど、次はきっとたぶん……巻き返せる」

 サエコは逃げるヒッテラーの背中を観ながら、にやりと口角を上げた。


  続く



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