第22話

「異能馬券師ケンタロウ!」 22


第3章 進撃の虚人たち


(2) 


「そこまで言うのなら、お望み通りとことん邪魔してやろうじゃないか。次のメインレース東京のダイアモンドステークスはいったい何を買うんだね?」

「いやだから、わざわざあんたに教えてあげる意味って、あると思ってんの?」

「わっはっはっはっは。みみっちいのう~。教えたらとたんに外れるから、そりゃあ教えられんわなあ~~ははは」ヒッテラーは不敵な笑みを貧相な顔に張りつけた。

「ていうか、まだ何を買うかは決まってねえんだよ。これマジな」

「何い~締め切り3分前だぞ? そんなにのんびり構えるとか、正気のサタデーナイ?」

「うるっせ~よ。どっか行けよオヤジ」ユウジはヒッテラーを追い払おうとした。

「いやいや、あいや……あのう……もっとかまってよ!」

 そうしている間にケンタロウがつぶやいた。「視えた!! 5番だ。菅原明良のワープスピードだ。3番人気、単勝5倍の馬だ!」

 4人はいっせいに馬券購入機へと向かった。ヒッテラーは振り返った。

 その時、レイの携帯が鳴った。

「なんなのかしら。こんな時に」スマホをバッグから取り出して覗き込むと、それは実家の母親からのメールだった。

『チチキトク。スグカエレ。ハハヨリ』

電報かよ? と突っ込みたくなるようなメールだった。

「ええ~~~??」

 ワープスピード5番の単勝にごっつい突っ込みを果たしたサヨコは、馬券販売機の前で後ろの客に怒声を浴びながら、立ち止まったままのレイに気づいた。

「どうしたの? レイちゃん」

 サエコの声に気づくとスマホをサエコに見せた。レイの顔はくしゃくしゃになっていた。

「あ~それはマズいっしょ、今すぐ行ってあげて!! 後のことは気にしないで」

「はい……すみましぇん、社長……」

「どうしたの? レイちゃん、社長―?」

 めざとく雰囲気を感じ取ったユウジが二人の前に来て声を掛けた。ノルマの馬券は買い終えて手にしていた。

「え? どうしたの」少し遅れてケンタロウもやって来た。

「ヘイヘイヘーイ。なんかこれってマズい感じなのかな? どうやら、戦う前にもらっちゃったのかなあ~~ヒヒヒ」

 そばにやって来て不敵に笑うヒッテラーの顔に、ユウジとケンタロウはこぶしをぶちかました。

「いってぇ~~何すんの~~」

「おめえは黙ってろ!!」

「ほんとにごめんなさい。あとのことはお願いしますう~」急いでレイは競馬場を飛び出した。

「気を付けて~~」3人はレイを見送った。

 突然、3人になってしまったが、とにかく菅原明良のワープスピードを確実に勝たせなければならない。3人は集中した。

ヒッテラーも腫れた顔をさすりながら集中した。

モニターの前で3人と怪しい中年男との対決が始まった。

 出足は良くなかった。ワープスピードは終始馬群の中だった。長丁場の3400メートルだ。まだまだ大丈夫だと確信していた。逃げていた2番ヒュミドールが4コーナーからの直線、ユウジの呪いが効いたのか、ずるずると交代していった。

しかし、伸びてきたのは9番2人気のテーオ―ロイヤルと、8番1人気のサリエラだった。

「ワープスピード、ワープスピード、ワープスピードーーーー!!!」

 ケンタロウとユウジそしてサヨコは、レイの分も補うかのように強力な祈りを発した。

 ヒッテラーは不敵な笑みを浮かべながら、その邪悪な目はどんよりと光っていた。


「お父様、お加減はいかがですの?」

 レイの実家、大札東照金毘羅神宮の作務室では父親が床に臥せっていた。顔色はすこぶる良さげだった。

「おおレイよ。わしのレイ。よくぞ戻ってまいった。ごほごほごほほ」

 明らかに仮病ぽい咳をして見せた。



  続く



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