第21話
「異能馬券師ケンタロウ!」 21
第3章 進撃の虚人たち
(1)
久しぶりに戻ってきたS競馬場は光輝いて見えた。何もかもがまぶしかった。あの苦しい肉体労働と修行の日々、それを思い出すと自然に涙が溢れた。俺たちはやった、やったんだ!!
何をやったのかはあまり明瞭に思い出せなかったが、とにかく約1カ月半でようやくこの場へと戻ってこれたのだ。
1レースは練習試合とし、念は込めるが金は注ぎ込まないということにした。完ぺきだった。ユウジの逃げ馬つぶし、レイがそのあとの先頭に立った馬のそのままを祈り、サエコが邪念を振るい落とした。そして1分50秒前に結果をケンタロウが見出した。
「ヨシ、これならばいけるな」
「おおう!!」
それから立て続けに3レースを消化した。最初用意した資金300万円は瞬く間に3000万円にまで膨らんだ。
「ようしよし」
「あのう、わしは何をすれば……」これまで何の役にも立っていないケンタロウがつぶやく。
「あんたは午前中、おとなしくしててよ」
「ふあい」
まぎれの多い新馬戦と障害戦は軽く流し、一進一退で終えた。
4人は軽い昼食をと、鉄火BARで蕎麦を食べることにした。
「さて。これからが本当の勝負よ」
「今日は強力な邪念がないようですわね」
「そういえば感じないなあ」
「その名無しの邪念さん、今日は欠勤臭いな」
「いや、そんなことはないと思うよ。きっとどこかでわたしたちのこと虎視眈々と狙っているはず。これはあくまでも仮設だけど、邪念のパワーはきっと永くは続かない。溜められるだけ溜め込んで、一気に爆発させるんじゃないのかな」
「ああ~きっとそうだよ」
「だからメインレースで一気に名無し邪念さんをぶっつぶすよ。そのためにケンタロウを温存してるんだよ」
「え? どういうこと」ケンタロウはごくりと蕎麦を飲み込んだ。
「ほら、これを預けるから。午後のレースでさっさと100万負けて来い!」
「え~~やっぱり」
サエコはバックにぎゅうぎゅう詰めの札束から100万円をケンタロウに渡した。
「絶対に10レースまで、勝ったりしたらだめだぞ!!」
「ふえ~い」
「じゃあ、あたしたちはメインレースまでに100万円だけ勝つくらいで抑えておこう。何ごとも欲をかいちゃいい結果は訪れないと思うのよ」
「そうですわね。そうに決まってますゥ」
「うん、少しは手加減しないとねえ」
その会話を聞きながら、ケンタロウはただ黙って堪えていた。悔しさが込み上げて来て、蕎麦が鼻や耳から出そうだった。
午後からの6~10レースで順当にケンタロウは100万円を溶かした。その円熟味を増したテクニックは見事としか言いようがなかった。10レースの結果を1分50秒前に確信したときには3人から拍手で迎えられた。
「いやあ実に素晴らしい」ユウジのにやけ顔にケンタロウはヒザ蹴りで返した。ユウジも負けずに回し蹴りで押収した。
「仲がいいわねえ。さあ本番だよ!」
そこに貧相な男がゆっくりと4人の前に近づいてきた。
「ふふふ。お前さんたち、好き勝手し放題のようだが……いつまでそれが続くかな」
「なんだよおっさん、誰だよ!」ケンタロウが叫ぶ。
「私の名前は東寺男、巷ではよくヒッテラーなどと呼ばれている。ちなみに課長補佐だ」
「はあ~? ああ~そっか、お前が名無しの邪念さんかー」
「わざわざ親切に現れて自己紹介してやったんだ。お前たちも名乗れ」
「悪党に教える名前なんかねーよ。いいから邪魔すんな!!」ユウジは強気だった。
「いや、それって……なんか違う……とにかくもう好きには左遷、いやさせん!!」
怪しげな対決が始まりそうな様相を呈していた。
続く
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