第19話

「異能馬券師ケンタロウ!」 19


第2章 初めての一歩


(9) 


 翌朝、サエコは社員それぞれの家へ迎えに行った。ユウジから始まってケンタロウ、最後はレイの元へとアカケンカーを走らせた。

「いやあ~社長自ら送迎とは有りがたき幸せ~」

「社長、昨日はいったいどこに?」

「デートでもしてたんですかあ~」

「そんな相手がいたらいいけどね~~だいたいそんなのがいたら、あんたたちとこんなに四六時中一緒にいられないでしょ」

「じゃあ、どこへ?」ケンタロウは気にしない素振りと見せかけて、内心かなり動揺していた。

「うんと、これね、昨日蘭さんのところへ行ってさ、土産にもらってきたの。良かったら食べて」

「え? なにこれ」ユウジは目ざとくサエコから包み紙を受け取った。

 なにやら焦げ臭いにおいがした。開いてみると、半分ほど焦げ付いて丸まった得体の知れないモノが出てきた。

「うひゃあ~これって食べれるんすか?」

「無理に食べなくてもいいけどね。甘くてなかなかおいしいよ。でんぷん工場を経営しているご近所からのおすそ分けらしいんだけど、でんぷんの塊をそのままかまどに放り込んで焼きながら表面をはがして丸めたモノよ。中に砂糖をまぶしてね」

「う~ん。微妙なお味。食べられなくはないけど、体に悪そう」

「どれどれ。何だかシンプルな懐かしい味」

「なかなか美味しいですう~~」

「なんていう料理なんですか、これ」

「蘭さんは『でんぷんロール』って言ってたよ」

「でんぷんロール?」

「でんぷんロール?」

「でんぷんロール?」

 どこかで聞いたことがあるような気がした。

「しかし、きつい修業だったなあ。同じことばっか、何度も何度も繰り返してさ~~」ユウジはでんぷんロールにパクつきながら言った。「もう二度とあんなのごめんだよ。絶対やだよな。でも、果たしてどれだけパワーアップできたのかなあ」

「それなりにみんな、強くなったのは間違いないさ」ケンタロウも旨そうにパクついた。

「そうだね。一番に大事なことは、何度も言われたように、繰り返し繰り返し反復することだよ。例えばギターやピアノが弾ける人っていうのは、弾けない人にしたら魔法使いのようなものじゃない。野球選手があんな凄い球を投げたり、その球をホームランにしたりというのも、凡人からしたらまさに神業よね。つまり魔法も神業も、繰り返し努力をすれば、ある程度かなえられるものなのよ。それしか強くなる方法なんて他にないから」

 運転するサエコの横顔に、思わずケンタロウは見とれていた。

「それにしても、あの大岩がまっぷたつに割れた時はきんもち良かったなあ~~あれでオレはもうこの世に怖いものなんて無くなった気がするよ」

「みんなの力が折り重なって、パワーになって、不可能を可能にしたのですわね~~」

 ユウジとレイは夢を見るかのようにアレを思い出していた。

「あのう……今更だけど、俺見たんだ。あの時の岩の割れ目の接着」「あ~~そうだ! 今日は清掃の業務だから、ラクだろうけど、しっかりやるんだよ、みんな!!」

 ケンタロウとサエコの目が合った。サエコは唇に人差し指を立ててウインクをして見せた。ケンタロウにはその意味がすぐに理解できた。

「あははは。それは良かった。今日はみんな、羽根を伸ばそう~~」

 でんぷんロールはあっと言う間になくなっていた。ほとんどユウジが一人で平らげた。



続く


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