第18話
「異能馬券師ケンタロウ!」 18
第2章 初めての一歩
(8)
ついに岩が割れた。とうとうやったのだ。
アルバデルンでの最後の日となった。この錬成道場での苦しい日々を思い返すと、涙が止まらなかった。
道場を後にし、それぞれが着替えてから居酒屋に集まった。おひとり様、料理6品飲み放題コース3000円の店だった。前回の焼肉とはずいぶん違うなあと違和感を覚えながらも久しぶりの酒はどんどんと進んでいった。
「さあこれでようやく戦えるぞ。早速、腕試しと行きましょうや」ユウジは酔いの勢いもあってかなり奮い立っていた。
「そうしましょ、そうしましょ!」レイもノリノリだった。
「…………」ケンタロウは悪酔いしたのか、終始無言だった。
「そう行きたいところだが、すまん。そうもいかんのだよね~」
久しぶりにピンクのスーツに身を包んだサエコが渋い顔をした。
「それはどーいうこと?」
「うむ。端的に言って資金が全くないのだよ」
「え? ということはつまりその……」
「しばらくはおもに肉体労働を主体として資金作りにはげもう!」
「え~~~?」
是非もなし……だった。
それから連日の除雪作業や建築現場などで休みなく4人は働いた。しかしこれだけの肉体労働的アルバイトをどこで探してくるのかは謎だった。ただ、サエコには得体の知れない人脈があるというのは間違いなかった。あの蘭さんとの付き合いも含めて。
肉体労働が6日間続いた翌日は休みになった。いつもは送迎に使われていて、ほとんどユウジが自宅へ乗って帰っていたアカケンカーだったが、その日は用事があるとサエコが言い出しみんなはそれぞれ公共交通機関で帰宅した。
翌日サエコはアカケンカーを運転し、ひとりでアルバデルンへと向かった。
「蘭さん、大変お待たせしちゃって申し訳ありません。研修料の残金のお支払いに」
「ああ、サエコさん。ありがとうね。領収書は用意しておりますわよ」
いつもの通り丁寧な口調の蘭さんだった。
事務室で支払いをしていると、ふと裏庭の様子が目についた。
作業着姿の男4人ほどが集まり、あの割れた岩を囲んで作業をしていた。
やや小さめの重機が左右から岩を押し込んでいた。
「えっと、蘭さんあの岩は?」
「あ~見つかっちゃったわねえ。あれは今、元通りに接着剤で修正してるところですのよ」
「え、えっと、もしかして……もともと割れていた?」
「まあねえ。うちの目玉の卒業試験だから。正直申し上げると使いまわしですの」
「ああ……はあ……」
「4人くらいで本気出したらね、なんとか割れるくらいに調整して復元するのよ。なかなか難しい作業ですのよ」
「…………」
サエコは言葉を失った。
「でもね、この岩の試練はけっして無駄じゃないからね。むしろあなたたちは祈りのチカラで落雷まで起こしたのよ。恐ろしいくらいの素晴らしい集中力だったわ。それは驚嘆に値することですわよ」
「はあ。そう……ですよね(このくそババア胴上げまでしてやったというのに!)」
とある漫画の岩切りというも案外、真相はこんなことなのかもしれない……。
サエコは、このことは墓場まで持って行こうと決意したのだった。
続く
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