第17話

「異能馬券師ケンタロウ!」 


第2章  初めての一歩


(7) 


 その頃、中央競馬では今までにほとんど見られなかった異常事態が相次いでいた。

 有力馬が頻繁に出遅れたり、落馬したりしていた。1日に数回ならば、まだ仕方ないことだと諦めもつくが、かなり頻繁に起こっていた。それに加えて1着や3着が同着という結果もあり得ないほどに増えていた。

「何かがおかしい」憂慮すべきことだとサエコは考えていた。

 おそらくJRAはこれまでにない、有料予想家や競馬で実際に利益を上げている連中をとことんつぶしてやろうという流れがあることは間違いない……何とかしなければ。きっと私たちをコテンパンに負かせたヤツが蔓延っているに違いない。大きな危機感を抱いていた。

 だが、まずは最終課題だ。このどでかい岩を何とかしなければ……たとえそれが出来たからといって、必ずしも新たなJRAの敵に勝てるというわけではないだろう。しかし、これを成し遂げれば必ずや突破口は開ける。そんな風に考えていた。

 そしてそれは他のメンバーとて同じだった。まずは、この課題をやっつけなければ。心は一つだった。 

 

 一通りの修練が終わり夕方4時を過ぎた。雨足は時間が経つに連れ酷い有様になっていた。

 それぞれが裏庭の岩の前へと集まった。

 岩に差し込んだ馬券が雨水を含み、わずかばかり膨張していた。すると、亀裂がほんの少し広がっているのが目についた。

「これは……もしかして」

「ヨシ、祈ろう。この雨とともに馬券が膨張して岩が割れることを全員で心から祈るんだ!!」

「そうか、それなら、もしかして」

 ズバババアーン!!

 大音量の落雷がすぐそばに落ちた。

「雷よ! 我らをすくい給え!!」

 4人はほんの少しの亀裂を頼りに岩を揺り動かし、懸命に引き裂こうとあがいた。

 全員すぶぬれだった。

 稲妻がピカッと光り、岩の真ん中を貫いた。


 その頃S競馬場を見渡せる特別室では、アルマゲドラー事務総長がヒッテラー課長補佐とともに企みを推進中だった。

「ヒッテラーよ、お前の持つその強力な負のオーラを、もっともっと発散するのだ。誰もが取れっこない、大荒れ馬券を演出し続けろ!!」

「は、はああ……しかしその、お言葉ではありますが、そんなことばかりやっていたら善良なお客様までも逃がしてしまいませんでしょうか?」

「馬鹿もん! 多くの人間が損してこそ、我々の商売は成り立つのだ。ごくごく少数の変態だけが少しばかりの穴を当てて喜べばそれでいい。なぜならギャンブルとは勝てそうで勝てないということが最重要なのだ!」

「は、はあ~~承知つかまつってござりまする~~」

 ヒッテラーはただひれ伏すしかなかった。


 雷に打たれた後、4人がこれでもかと岩を揺り動かすと、ついに真っ二つに割れた。

「やった、やった、やったぞ~」

「ついにやった~~」

「ばんざ~い」

「ようし、よくやったぞ!!」

 小躍りして喜ぶ4人の前に蘭さんがやって来た。

「うむ。やればできるじゃないか。その心が一番大切なのじゃ!!」

「じゃじゃじゃ~~!!」

 なぜか蘭さんを胴上げして4人は喜びを爆発させた。 

ようやくこれで修行から解放されるのだと思うと、いても立ってもいられないのだった。



続く


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