第7話

第1章 たくらみの夕暮れ


(7)

 

 しかしいきなり100万円もの大金を渡されるとは。計画通りではあるが、まさか本当の話だったとは。そこは適当にごまかさせれるだろうと踏んでいたケンタロウは、拍子抜けと同時に不信感がつのった。

(いや、まさかな。まだ入社するかどうかも分からない俺みたいな者に本当に100万も渡すのとは。こいつって馬鹿なんじゃね? いやもしかして偽札か?)

「本物だよ。馬鹿はあんたの方だと思うよ。これだけの能力がありながら負け続けてるなんて」

「え? あ、そっか。お見通しか」

「金を持ち逃げしようなんて考えても無駄だよ。先回りして捕まえるなんて、あんたの思考を読めば簡単すぎるから」

(くっ……しかし、何が何でも入社しろって言う割には最終試験だとか……不合格ならどうすんだろ?)

「奴隷になってもらうよ」

 (っ…………)ケンタロウは観念した。


「アタタタタタ~~俺の馬券はすでに外れているううう!!!!」

 ケンタロウは10万ずつ馬券を買い、次々と外しまくった。そしてその都度泣いた。なにせ1分半前には結果が解ってしまうのだ。絶対に当てないという買い方、これはこれでなかなかむずかしい、生まれて初めての経験だった。

「はあっはあっはあっ……無事に100万負けました~~」

「ヨシ、ご苦労だった。偉いぞ」

「お疲れさん」

「ご苦労様ですうう」

 ユウジとレイもすでに到着していた。

「へへん。どんなもんだい!」ケンタロウが威張ると他3名による大きな拍手が続いた。

(いや、それってとっても馬鹿にしてない?)


「さてホープフルステークス。1番と17番が取り消しになったから実質16頭立てだ。1人気は13番レガレイラ、ルメール騎乗。2人気6番シンエンペラー、ムルザバエフ騎乗。ドイツのトップジョッキーだが昨年から短期免許で何度か日本に来て、わずかな騎乗回数で重賞3勝している。3人気11番ショウナンラプンタ鮫島、4人気16番センチュリボンド武豊、5人気ヴェロキラプトル戸崎……おそらくこの中から優勝馬が決まるだろう。さほど荒れないとみる。そして逃げそうなのは武と戸崎あたりか。この5頭の単勝、それぞれマークシートを用意しておくように」

「えっと、軍資金は?」

「今日は試験だから自腹ね」

「ええ~~~」ケンタロウとユウジが同時に泣いた。

「有り金全ツでございますわよ、さあみなさん」ほほえましい笑顔を見せるレイ。

「さあ~~これより最終試験だわよ。ていうより、わが社の運命を賭けたこの一戦。みなの者、奮励努力せよ!」

「おおおお~~!!!」

 廻りの客の目が気になったがケンタロウも思い切り右手を突き上げた。

「えっ運命を賭けた一戦……て、何?」

モニターにはパドックを回る元気な馬たちの様子が映し出されていた。


「いいか、作戦は話したとおりだ。まず締め切り直前、ケンタロウに勝つ馬が視えたらいっせいに勝負馬券を購入。金額は任せるが、ありったけの勝負と心得よ!」

「でも2分の1の確率しかないんだから」

「そこでユウジお前の出番だ。逃げ馬に呪いをかけろ」

「それだって3分の1くらいの確率しか……」

「あとはレイの祈りだ。これでうまくいく。きっと嵌まるはずだ!」

「大丈夫かなあ……」

「わかってないね。一番大事なのは信じる心だぞ! さむでい!!」

 ケンタロウは心から不安になった。

(なんで佐野元春なんだよ……?)



続く


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