決意

「幼馴染が涼の彼女として、もう1人の幼馴染に逢いに行かないといけないってこと?」



幼馴染の咲希に逢いに行く必要があることが、1番怖いのだ。


今の時刻を確認すると、午前11時前。咲希にレンタル彼女(幼馴染)を見せるまで、あと1時間を切っている。

急いで咲希のメールを確認してみると、


「あ...」

《予定より早く着きそう。あと15分くらいで駅前のカフェに着くけど、大丈夫?》

とメールが届いていた。


スマホを覗き見してきた凛音は

「どうするのよ!?涼の彼女として咲希に逢うなんて出来るわけ無いでしょ!」


ややキレ気味になっている凛音が「どうしよう...」とこの状況の打開策を考えている。俺も咲希に

「凛音が俺の彼女なんだ」

と説明したらどうなるかは大体想像がついている。



え!?あんなに優柔不断で何も決められない涼が凛音の彼女!?



こう言われるに決まってる。

第一、咲希に彼女がいると言ってしまった原因も、元をたどれば俺のみっともない点についてお説教を受けていたことが原因だ。

挙句の果てには、凛音が彼女か疑われ、ボロが出てしまい、咲希に今後白い目で見られるようになってしまう。

仮に、咲希を騙したまま月日が過ぎたとしてもいつかは打ち明ける必要が出てくるだろう。


そして何より、今まで一緒に遊んできた3人の友情に亀裂が入るきっかけになってしまうかもしれない。


俺は思春期に2人の魅力に惹かれていた時に、自分で決めたことだが「どちらかを取るようなことはしない」と決めたのだ。

勿論、俺はモデル級に可愛い幼馴染の2人の彼女になれるなんて考えもしなかったが、どちらかを裏切ったり、どちらかに告白することはしないべきだと思春期の俺なりに考えたのだ。


それくらい2人のことが好きだったから。


だから一途になろうとしても、身近に魅力的な女性が2人もいたら、そう簡単には恋することだって出来ない。


だから俺は2人と一定の距離感を保ち続けてきたのだ。


それなのに・・・



「私、小瀬川 凛音は涼の彼女として咲希に逢いに行く必要があるなんて辛すぎるよ!」


俺の置かれている状況は最悪だ。

今から新しい彼女を借りることだって出来ないし、新しい彼女を作ることだって出来ない。

俺に残された選択肢は2つ...いや、3つある。


1つ目は、このまま逢いに行くということだ。

咲希への言い訳はその時の俺がなんとかしてくれると信じて、流れに身を任せるという最悪の作戦だ。


2つ目は、今から咲希に謝ること。

そもそも、彼女がいると嘘をついてしまったこと自体、問題だったんだ。だから今ならまだ咲希に謝ればいい。


だけど...一連の事件を咲希に告げると、今度こそ見捨てられてしまう。俺は一応、男だし、この場をなんとか乗り切って、後で別れたと言えば、ことは丸く収まるはずだ。



そして3つ目は、凛音に本当の彼女になってもらうということ。

まあ、これはあり得ないので、実質選択肢は2つしかない。




突き通すか、嘘だと言うか。



時計を確認すると、咲希からメールが届いてもう5分も経っていた。ここから待ち合わせているカフェまでの時間を考えると、そろそろ決断しないといけない。

こうやって優柔不断な部分について何度も咲希に怒られていたが、自分が被害を受ける側になるなんて思ってもいなかった。


「凛音、どうする?」

凛音は必死にスマホで誰かとやり取りをしているようだったが、顔を引きつらせて、


「やっぱり駄目...。他のレンタル彼女をやっている友達もみんな、出かけちゃってるって」

他の同じ業種の友達に頼もうと連絡してくれていたようだが、誰もこの時間に対応してくれる人がいないようだ。

勿論、俺のことを一切知らない女性が来ても、彼女として咲希との会話を乗り切ることが出来るかどうかも怪しい。



これはこの出来事を誤魔化すしかないのか...。



もう決心がついた俺は、咲希への言い訳を考える。

「彼女の体調が優れないから」と一時的に話題を避けておけば、別のレンタル彼女を借りて彼女として紹介すれば良いだろう。

そしたら「どうせ嘘でしょ!」と今日は言われ続けるが、別の日に言い返せる。

その内、俺も努力して本物の彼女を作れれば...


その時は、咲希にレンタル彼女を借りて嘘をついたことを告白しよう。



メールを送ろうと決意し、スマホを開くと、




「やばい!!やらかした!」


そう、レンタル彼女と合流する前に《そろそろ彼女と合流》とメールを送っていたのだ。これでは彼女の体調が優れないと言い訳が出来ない。


凛音が彼女ということで咲希に逢うべきという考えが、一瞬脳内をよぎったが、それはない。俺の嘘に付き合わせるために凛音にまで迷惑をかけるわけにはいかない。



ごめん、凛音。咲希に嘘をついたことを告白するよ。



その言葉を口に出そうとした瞬間、凛音が言い放った。



「決めた。私は涼の彼女として咲希に逢いに行く」

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