幼馴染

「場違い感が凄いな...」


デートの前日。

一応レンタル彼女とはいえ、最低限のお洒落は必要かと、今まで入ったことのないような店を訪れる俺。咲希に男らしいところを見せるためにと、意気込んで来たにも拘らず、周りは若者やカップルで溢れ、楽しそうに服を試着している。


そんな中、俺は

「え...。どの服がいいんだ?」

俺はいつも親に買ってもらったような服装しか着てなかったし、お洒落とは無縁のような存在だった。別に服にお金をかけるくらいだったら、趣味にお金を使いたいと思ってしまう。こんなこと咲希に告げたらまた呆れられそうだなと思いつつ、服を眺めている。すると、

「お客様、服のお悩みですか?」

と若い男性の店員さんに話しかけられる。

センター分けの髪に黒渕の丸眼鏡が似合うイケメンの店員さんで、穏やかな雰囲気だったので相談してみようかなと思った。

「実は、出かける時の服装を探しにきたのですが、自分が似合う服装がわからなくて」

「そうですね〜。じゃあこんな服装はどうですか?」

と奥に立っているマネキンを指差す。

お洒落な写真がプリントされた服に、白いシャツを着ていた。ズボンは少しゆったりとした雰囲気を感じられるジーンズだった。

「いいですね」

「凄く似合いそうですよ!試着してみます?」

「あ、ありがとうございます」

上手く店員さんに乗せられている事は分かっていたが、言葉につられて、試着してみる。


着替えて鏡を見てみると、

「お〜!」

いつもシワのある服装しか着ていなかった自分とは全く違う別人がそこにはいた。

店員さんに相談してみると、「先程は別人なくらいに、似合ってますよ!」と太鼓判を押されたので、購入した。

値段は少し高くついたが、自分でもしっくりとしたので、良かったと思う。


まあこんな自分と出会うことが出来たのも、一つの嘘からだったんだけどね。

そう思うと、こうやってデートの準備をして、服を購入するのも悪くないな。


そんな感じで、デートの準備は万全の状態で当日を迎えた。





「…此処で合ってるな」

時刻を確認すると午前9時30分。小瀬川さんとの待ち合わせ場所に30分も早く着いた俺は、意外なことに結構落ち着いていた。

朝早くに起きて、この前買った服を着て髪をセットしたり、初デートということで、気合が入っていた。初デートがレンタル彼女となんて咲希に知られたら恥だし、咲希は俺に彼女が出来たということ事態、半信半疑みたいだ。

大学の講義で逢った時も、落ち着かない様子で俺を何度も見てくるし、話しかけようとしたら逃げるし、あの夜から咲希の行動は不自然になるし。

まあ、俺が今日彼女がいるっていうふうに誤解してくれれば、俺は咲希に何も言われないし、少しは俺のことを見直してくれるだろう。


咲希に《そろそろ彼女と合流》とメールを送信していると、レンタル彼女、小瀬川さんからメールが届いた。

《今日は、どんな服装で来ていますか?何処にいるか探していて》

俺は、

《ロンティーの上に白いシャツを羽織っています。下はジーンズです。一応、集合場所に着きました》

と送った。

そしてスマホをカバンにしまい、これからデートかと気合いを入れ直すと、



「え、涼。どうして此処にいるの?」

声が聞こえた方を振り返ってみると、


いつもとは全く雰囲気の違う小瀬川 凛音がいた。

だが、問題はそこじゃない。


「お、お前。まさか...小瀬川 泉じゃないよな?」

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