第2話 冒険を止めた時に、冒険者は冒険者ではなくなる。
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「冒険を止めた時に、冒険者は冒険者ではなくなる。
わたしはまだ冒険者だ。まだ冒険者を止める気はない」
少女はそんな事を思いながら、闇夜の街を走り抜けた。
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ぼくの名前は『環琉』と書いて『めぐる』と読む。
そしてぼくの前には、鉄板が置いてある。
「たまらん!たまらん!なんて至高な空間なのだ!」
鉄板焼きの鉄郎!
それは至高な場所ではあるが、店はボロイ。
ここの店長と言うか社長の鉄郎爺さんが入って来るなり、
「我が愛しの弟子よ!だったらこの店を継げばいい!」
と叫んだ!
【鉄板焼きの鉄郎!】の年老いた爺さんは、バイトに過ぎないぼくに告げた。
そもそも赤の他人のぼくが継ぐ理由など全くない。
こんなオンボロ鉄板焼き屋なんて!
「そもそも料理の才能がゼロの爺さんの弟子になった覚えなどないし、料理を教わった事もないじゃん!」
「それは、もう教える事はないと言う事だな。ついに師匠である儂を越えって事か?」
「違います。最初から超えてます」
「そこまで言うなら、そうだな、我が弟子であるお前に恩を売るのもあれだし、この店を10万で売ってやる。そしてお主が鉄の意思を継ぐのだ!」
「嫌です」と言っているのに、会話が成立していない。
この鉄板焼き屋は常連客もかなりいて、で、10万なら格安だが、継ぐとなると意味が違う。
ので
「嫌です」
とぼくは再度返答した。
ぼくはまだ定職に就く気などない!
ぼくは漂流者なのだ!
最近、この鉄郎爺さんは
『我が愛しの弟子よ!だったらこの店を継げばいい』
この台詞と会話の途中に、脈略もなく入れてくる。
例えば、
「何か雨が降りそうですね」
「我が愛しの弟子よ!だったらこの店を継げばいい!」
まあ古さはあるが良い店だし、良い店だからこそ1年前に、バイト募集に応募したのだ。
拒否をし続けているうちに、2つの事件が起きた。
看板が【環琉(めぐる)くんの鉄板焼き屋さん♪】と変っていた。
(めぐる)と振り仮名付だ。
【鉄板焼きの鉄郎!】に比べれば、凄まじいキャラ変だ。
もう1つの事件は、鉄郎爺さんの孫娘との遭遇だ。
店に入ろうとすると、看板を見上げる女子がいた。
彼女はぼくをじっと見つめた。
女子大に行くことになった孫娘がいるのは知ってた。
多分、その子だ。明らかに陰キャだ。
現在、爺さんと婆さんは、郊外の一軒家で暮らしていて、2階は空き部屋になっていた。
爺さんの説明によれば、孫娘の名前も『環琉』と書いて『めぐる』と読むらしい。
同じ名前の【環琉ちゃん】好みかどうかと言えば、とても好みだ。
ぼくの心は揺らいだ。
同じ名前。きっと運命だろう。
ぼくは漂流者にして運命論者だ。
いや、むしろ漂流者だからこその運命論者なのだ!
つづく
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