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 しばらくお互いを抱きしめ合っていた私達は、やがて身体からだを離してはんこしを下ろした。

 初めて彼と並んで腰を落ち着けたことに、少しの感動を覚える。


「婚約もまだなのに、身体に触れてすまなかった。不誠実なをしたことを謝罪する」

「抱きついたのは、私からですよ?」

「あぁ、そうか。そうだった……かな」


 顔を真っ赤にしながら、シライヤはひざを抱えて言う。

 女性慣れしていないその姿に、やっぱり可愛らしさを感じてしまう。

 大きな身体で、大人びた美しい顔をしているのに、こんなに可愛らしくもあるなんて、私をどこまで夢中にさせる気なのだろう。


「ご両親は、婚約を反対するのでは……」

「いいえ。父も母も、私がブルック公爵令息へおもいを寄せていることはすでに知っています。その上で、おうえんしてくれています」

「そうか……。ご両親が」


 あんと共に顔をほころばせるシライヤを見ていると、私も嬉しい。早く正式な婚約者になりたい。


「少し気が早くはありますが、シライヤ様とお呼びしても?」

「もちろんだ。では俺も、シンシアじょうと」

「シンシアと呼んでください」

「ならば俺のことも、シライヤと」

「はい、シライヤ。これから末永く、よろしくお願いします」

「シンシア。俺の方こそ、末永くよろしく頼む」


 お互いの呼び方を変えて、湖のきらめきを二人で楽しんだ後、馬をゆっくり歩かせてルドラン子爵家へ向かう。

 この林を抜けて湖へ向かう時、私達は友人だったのに、今はこいびとなのだ。感動で身体がふるえそうになるのを、づなにぎった手に力を込めてなんとかえる。

 二度程シライヤをぬすようとしたが、二回とも視線が合ってしまった。おそらく彼は、私をずっと見つめていたのだ。

 求められる感覚を知って、これが両想いなのだと初めての恋人から受ける愛情を知り、木々の間から漏れる光がやたらと眩しく感じた。

 帰った屋敷では、シライヤに告白をしてりょうしょうもらったことを両親へ報告する。二人はとても喜んでくれた。


「すぐに公爵家へ婚約をしんしよう! おめでとう、二人とも」

「本当に良かったわ。婚約ろうパーティーも、考えておかないといけないわね。二回目になるから、しんせきを呼ぶだけのささやかなものになるけれど、かざって楽しみましょう」


 母の言葉に、シライヤは困り果てたように顔をゆがめた。


「重ね重ね情けないところをお見せいたしますが、俺にづかいや予算は割り当てられていません。パーティーの為に、シンシアのドレスを用意することはできないと思います」


 悲しげに言うシライヤを勇気づけたくて、彼の手を握った。


「いいのです、シライヤ。そろいのしょうは、私に用意させてください」

「しかし……」

「こちらがシライヤを婿むこに貰うのですから。いいではありませんか。むしろシライヤを着飾らせるのが、今からとても楽しみです」

「シンシア……。ありがとう」


 ぎゅうと手を握り返されて、つ心がおさえられない。本当に、この素敵な人と婚約できるのだ。


「衣装のことは、娘の言う通りでいいとして、ダンスはどうなのかしら? 婚約関係になれば、二人でいっしょおどる機会が多くなる訳だけど、踊れるのかしら?」

「いえ……、それもお恥ずかしながら。習ったことがありません」

「まあまあ! そうなのね! では私が教えるわ! 私も未来のむすに、何か教えたくてウズウズしていたのよ!」


 母はぜんやる気が出たように明るく言った。そういえば、シライヤが乗馬を習っている時、何かムズムズと身体を揺らしていた気がする。


「まだいられるのでしょう? さあ、ホールへ行きましょう! さあさあ!」


 今から始めるのですか? と尋ねるすきもなく、私とシライヤは子爵家のダンスホールへ連れて行かれてしまった。母のごういんな行動に、私達はどちらからともなく笑いを零してしまい、そのままダンスレッスンを受けることになった。

 ここでもシライヤは教わったことを全て吸収し、今日初めて踊ったとは思えない程かんぺきな動きを見せる。

 教えがあると興奮した母に、いつ使えるのか解らない情熱的な踊りまで教わること

となった。

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