②
*****
「ブルック公爵令息。私も乗馬に参加させてください」
「ルドラン子爵令嬢! 格好いいな、とても似合っているよ」
「ありがとうございます。貴方も、馬に乗る姿がとても
シライヤに賛辞を
この世界で、貴族女性が横乗りで馬に乗ることはなかった。
恥じらうこともなくアリーに跨がると、ノアとアリーはお
「近くの湖までくらいなら、いい練習になるだろう。二人で行ってきなさい」
父に提案され、私達は喜んで馬を
屋敷の
ノアはシライヤの乗馬訓練にも付き合っていた為に、一度休ませた方がいいだろうと、私達は馬から下りた。
私達は湖を眺めるように、少し
「まさか、乗馬を体験できるなんて思わなかった。本当に嬉しいよ」
先に口を開いたのはシライヤで、弾む心のままに言っているのが解った。彼の人生に、一つでも多くの幸せを増やせたのなら、私の心も弾む。
「少し習っただけで、こんなに乗りこなせるなんて
「ノアが俺に合わせてくれたからだ。
「ふふ。そうですね。ノアも賢い子です」
一呼吸置いて、聞きづらいが、確かめなければならないことを口にする。
「公爵家での生活は……
シライヤは考えるように視線を落とし、一度ノア達を見ると、また湖へ視線を戻した。
「……兄達が父から乗馬を教わるのを、
湖を見ているようで、どこか遠くを眺めている緑の
彼はどれだけの長い時間、諦めながら生きたのだろう。そうすることでしか、心を護れなかった彼は、深く傷ついたことも解らないふりをして、いつしか
「諦めて欲しくない」
無責任な言葉が口から
シライヤは、そんな私に
「貴女は
「……ありがとうございます。自慢の家族です」
家族を褒められて嬉しく思うはずなのに、
だからだろうか。私は自分で思うよりもずっと、勇気の必要だったはずの言葉を口にした。
「貴方も、家族の一員になって欲しいのです」
強く湖風が
今になって私の心臓が
焦燥には
驚き見開かれていく緑の目をまっすぐに見つめ、
「貴方を護りたい。何も諦めさせたくない。幸福を与えたい。愛情深い家庭を、貴方と作りたい」
「令嬢……、それはつまり」
「私と、
わずかな時だったのだろうが、長く感じる程に静けさを聞いた後、ようやくシライヤの唇が動く。
「俺を
「ブルック公爵令息」
目を
「私が知りたいのは、貴方の心です」
息を吸う音が聞こえて、
「だ、
「聞かせて」
「貴女は
「貴方の心が聞きたい」
「俺は……っ!」
湖に反射する光が彼の瞳を輝かせて、シライヤは
「貴女と……家族に、なりたい」
再び強く吹き始めた湖風に背を押され、私はシライヤに
「なりましょう。幸せな家族に。寂しい思いなんて、もうさせない」
返事の代わりに、シライヤは強く私を抱きしめた。
きっと彼は
私の視界も揺れているのは、湖が光を弾くせいだけではないのだろう。
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