③
*****
そうして校舎裏の待ち合わせを
愛馬を紹介したいだとか、お気に入りの本を貸し借りしようだとか、旅先で買った奇妙な置物を見て欲しいだとか。
きっと一日では遊びきれないから、また約束しようと次の予定まで楽しみにして。
いよいよ明日は、シライヤを我が家へ招待するという日。
「まぁ、本当に、身の程知らずと冴えない男が仲良くしていらしてよ」
「身の程知らずじゃなくなった、ということではありません? お似合いだわ」
シライヤとの貴重な時間を
どうして
「それにしたって、エディ様に捨てられて後がないからって、わざわざこんな冴えない男を選ばなくても……ねぇ?」
「本当ですわねぇ。身の程知らずの次は、
エディを捨てたのは、こちらの方なんて
大事なシライヤとの時間を、一秒だって
しかし、シライヤの方は私を庇おうとしているのか、
「ブルック公爵令息」
シライヤの口から言葉が出る前に声をかければ、彼はピタリと動作を止めて、私を
私だって、シライヤを悪く言う彼女達を言い負かしてやりたい。けれど、ピエールの時と違って相手が令嬢では、少し分が悪いのだ。
私だけなら良かったが、シライヤが彼女達と
「無礼な者達の相手をする必要はありません。構わず、今の時間を楽しみましょう」
「……貴女がそれでいいなら」
すぐに
「ちょっと! 私達を無視するつもりなの!」
「なんて生意気なのかしら!」
無視をしたいのだが、少々
「ブルック公爵令息。よろしければ、図書室にでも行きませんか? 授業の予習をご
「もちろんだ」
図書室ならば、令嬢達も騒がしくできないだろう。
考えながら立ち上がった時、「危ない!」と、シライヤの
私と令嬢達の間に入るように
「ブルック公爵令息!」
シライヤが、私へ
のだ。
向こう側に見える令嬢達は、近くの
「なんて
令嬢達を批難しながら、小さなハンカチを取り出した。こんな物では足りないだろうが、せめて顔だけでも。
「私を庇う為に、申し訳ありませんっ!」
「いえ、貴女が無事で良かった」
いきなり冷水をかけられては、きっと
「まあ! 冴えない男を洗って差し上げてしまったわ!」
「それでも、エディ様のように華やかにはなれませんわよねぇ」
悪びれることもなく
「
バケツが地面に落ちる音がして、令嬢達を見れば、彼女達はポカンとシライヤを見つめて
そうか、と気がついた。
エディの容姿に夢中になっていた彼女達のことだ。メインルートである王太子と張り合う程の美しさを持つ、シライヤの顔を正面からハッキリと見れば、彼女達が何を思うかなんて手に取るように解る。
「うそ……。こんなに、美しい
「なんてこと。エディ様よりずっと……。シ……シライヤ様ぁ」
「名を呼ぶな。不快だ」
顔を真っ赤に染め上げてうっとりとし始めた令嬢達。
片方がシライヤの名を呼ぶと、
エディのように彼女達にとって
「ルドラン子爵令嬢へ危害を加えるようなことがあれば、女性だろうと
ピエールへ向けたように、令嬢達へ
「ブルック公爵令息。すぐに保健室へ向かいましょう。このままでは、お
保健室なら、簡単な
「ルドラン子爵令嬢……」
「どうかしましたか?」
シライヤに風邪を引かせたくない一心で、急ぎ保健室へ向かっていると、彼に呼び止められる。
「……手を。誤解されてしまう……」
「あっ」
急ぐあまり、シライヤの手を取ってしまっていた。
「すみません、ご不快な思いをさせてしまいましたね」
慌てて手を放すと、彼は繫がれていた手を片手で包むようにして、頰を赤くしたまま小さく返す。
「俺は不快に思わない。貴女の方が嫌だろう」
「……私も、貴方と手を繫ぐことが、嫌ではありません」
彼の反応にわずかな期待を覚えて思い切って言ってみれば、シライヤは驚いて目を見開き、その後更さら
に恥ずかしそうに視線を落として耳まで真っ赤にした。
「よろしければ、エスコートさせてください」
再び手を差し出すと、シライヤはギュッと口元を引き結び、ためらいながらも私の手に自分の手を重ねた。
さっきよりもずっと温かくなった手に、これなら風邪を引かないかもしれないという安堵と、学園という
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