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 それから、私達は明日も会おうと約束をして、それを何度もかえした。

 話が合うのだ。勉強の話はもちろん、領地経営の話を振っても、難なくついてくる。聞けば、公爵家の書類仕事を手伝っているという。

 ますます、かれてしまう。彼が夫としてルドラン子爵家へきてくれたら、きっといっしょになって子爵領をまもってくれるだろう。

 父と母のように、支え合えるふうになれるはずだ。

 いつも上着を貸して貰う訳にはいかないので、敷く為の布を持参するようになったが、


「貴女にしてあげられることがなくなってしまって、少しさびしい気がする」と眉を下げて笑うものだから、その可愛らしさにもんぜつした。

 ある時は、シライヤのクラスの授業が遅れ、あしで校舎裏に現れた彼のけなさに胸を締め付けられ、またある時は、雨が降りしきる校舎裏でかさを差してたたずむ彼へ声をかけると、「今日は来てくれないかと思った……」とあんしたみを向けられ、あまりのいじらしさに変な声が口から漏れた。

 会うたびに魅力を増すシライヤに、私はすぐに夢中になった。

 もっと会いたい。明日も会いたい。

 できればずっと、こうして話をしていたい。


「ブルック公爵令息、毎日おさそいしてしまって、迷惑ではありませんか?」

「まさか! 迷惑なんて絶対にありえない! ……貴女の方は、俺なんかと毎日話して、つまらなくないのか?」


 急に自信をなくしたようにうつむくシライヤを放っておけなくて、階段から立ち上がりきょめて緑の瞳をのぞき込む。


「それこそ、ありえません! 足りないくらいです!」


 驚いた顔を向けるシライヤの手を取りたい。しかし、婚約関係でもない以上、それはきっと許されない。


「貴方と話せることが、とても楽しいのです。今日はなんの話をしよう、明日は何を話せるだろう。朝起きる度に、今日も貴方と話せると考えて、心が温かくなるのです」


 つのるような想いのまま歩を進め、一歩一歩とシライヤに近づけば、彼はそれに合わせて後退した。


「令嬢……、距離が、少し……」

「これからも会ってくださると、約束していただけますか?」


 もう一歩詰め寄ると、シライヤの背が学園のへいにトンとつく。


「……っ、……っ」


 言葉を詰まらせるシライヤの顔は、みるみる赤く染まっていく。前髪で表情が見えづらいのが、しくてたまらない。

 れる寸前まで近づけば、シライヤは限界だと言うようにまぶたをキツく閉じて声を上げた。


「わ、解った。約束する」

「良かった」


 ホッとして身を引くと、シライヤは胸を押さえて息をき出した。初心うぶな人。とても可愛い。


うれしいです。今から明日が楽しみになってしまいそう」

「いや、明日は……。休みだが」

""



******



 確か、休日というのは、もっと楽しい日ではなかっただろうか。


「はぁ~~~~~」


 長い長いため息をつき、ベッドの上に突っした。

 シライヤは、いまごろ何をしているだろう。こんなに会いたいと思うのは、私だけなのだろうか。

 毎日校舎裏で会う約束をしてくれたからといって、シライヤが私に好感を持っているとは限らない。

 彼の場合、だんから家庭内で虐げられ、まともに会話をしてくれる相手が少なく、人との会話に飢えていたからという理由で、私と話している可能性だってあるのだ。


「そうだ! シライヤは、家で虐げられているんだった! ということは今この時も、つらい思いをしているのかもしれない……っ」


 ガバッとベッドから飛び起きて、部屋のとびらへ駆け出すが、扉を開ける前にへなへなと座り込む。


「婚約者でもない私が、公爵家へ乗り込める訳なかった……」


 シライヤのことが心配だ。今このしゅんかん、彼が悲しい思いをしていないか、自信をなくしていないか、綺麗で大人びた顔をしているのに、笑うとなんだか可愛いあの顔が、俯いて涙をこぼしていないか。

 考えれば考える程、しょうそうに駆られてしまう。


「笑顔でいて欲しい」


 私が、笑顔にさせてあげたい。そうしてあげられたらいいのに。


「幸せにしてあげたい」


 この気持ちは……。

 扉をノックする音で、反射的に立ち上がる。次期子爵として、床に座り込んでいる姿など、だれにも見せたくはないのだ。


「何かしら?」

「お休みのところ、失礼いたします。だん様と奥様がお呼びです」


 扉しに伝えられ、立ち上がる必要はなかったと思いながら「すぐに行くわ」と返事をした。

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