②
「シンシア様、エディ様の意思を尊重するべきです。援助しているからと言って、エディ様を
学園の
なぜこっちに来るかな……。
そうは思いつつも、次期ルドラン子爵家当主としてのプライドがある。心の内を顔に出すような無様は犯さず、気品ある
「お話が見えないのですが。奴隷とはなんのことでしょう」
「気づいてもいないのですね。エディ様は、伯爵家の為にシンシア様に逆らうことができないのです。本当はもっと、したいことも学びたいこともあるのに、シンシア様の
「それ
「またそうやって、エディ様を
この場を後にする
ヒロインが大げさな程の声で
かつて婚約を断った家の令息達も数人、
新しい婚約者を選ぶ時に、
「あの、何かお話があるようですが、私はこの後大事な用がございますの。ご用件は我が家
できるだけ穏やかな声で、笑みを向けてそう言うが、悪役令嬢シンシアの顔では意味がないのかもしれない。
燃えるような赤髪に赤い瞳、美しいがキツそうな顔つき。正に悪役令嬢としてデザインされたこの
この
「家の権力で私を
この後の大事な用というのは、エディとの婚約解消の話し合いですの。と言えたら、どんなに楽なことか。
しかし次期子爵としては、まだ
せめて婚約の解消が決まった後なら、このヒロインを追い返してやることもできたというのに。
タイミングが最悪すぎる。明日来て欲しかった。
「
あえて
前までの
この考えなし女……。
「待ってくれ、シンシア。エリーの話をちゃんと聞いて欲しい」
考えなしが増えた。
ギャラリーの中から掻き分けるようにして登場したのは、夕焼け色の
その美しい髪は、私が過保護に整えていたからこそ保たれているのだが、婚約を解消すれば二度と私の手が入ることはない。果たしてエディは、自分でその髪を
というか、エリーってヒロインの名前なのか。
あのゲームでは、自由に名前をつけられるから知らなかった。
エリーとエディで
エディは
「エリーに言われて気づいたんだ。僕は今まで、ずっと
ヒロインに言われてから気づく
さっきもヒロインに言ったが、そこまでエディを拘束した覚えはない。
そんなにエディにかまけていたら、私もやりたいことがやれない状況になってしまうじゃないか。
私がエディと会わず、領地経営を学び、視察に出かけ、必要な交流をこなしている間、エディは何をしていたのだろうか。
彼のことだから、ただぼーっとしていただけなのだろう。
かつての私は、彼の穏やかなところが気に入っていた。
しかし今になってみれば解るが、穏やかというよりは、彼はただ自分のやりたいことも解らない、意見のない人間であっただけなのだ。
それでも無害であるなら可愛らしいとも思えただろうが、残念ながら彼は害のある優柔不断男に成り下がってしまった。
現在進行形でそれは加速しているようだ。
「そうですか、ドリス伯爵令息。この後話し合いの時間はありますので、とりあえず移動しましょう。本日の我が家との話し合いの件は、伯爵様からお聞きになっているかと思いますし、続きはその場で……」
「もう止めてくれ! うんざりだ! なんの話し合いかは知らないが、また金の力で伯爵家を脅す為の話し合いなんだろう!? 僕は行かない! 今日初めて、僕は君に逆らう! これは一人の人間として、僕の正当な権利だ!」
「子爵家が伯爵家を呼びつけるなんて、身の程知らずもいいところだわ」
「やっぱり、お金の力でエディ様を
エディの取り巻きの女子生徒達は、私が想像通りの悪女だったのを喜んで口々にそんなことを言う。
呼びつけてないし。今日の話し合いも、伯爵家で行われるし。
「本日の話し合いは、非常に重要なものとなりますが……。出席されずに、どちらへいらっしゃるのです? 何か大切なご用事でも?」
「僕は君に、プライベートを全て明かさなければならないのか? 僕には僕の予定があるんだ!」
めずらしくエディは激高する姿を見せた。これは本気で、話し合いに参加しないつもりのようだ。
ちょっと待てよ。
それなら、多少こちらに有利に婚約の解消を進められるかもしれない。
婚約解消の理由付けに、私が大げさに話しても、否定する本人は不在なのだから。
違約金……。かなり減額できるかも。
それどころか、今こうして大勢の前で私を悪し様に言っていることを持ち出せば、違約金はチャラでは? これだけの証人もいる訳だし。
「我が家にそのつもりはありませんでしたが、金銭による脅しを受けていると感じておられたのですか?」
「実際そうだろう! 一時的に経営難に
「婚約者として
「そうだ! 僕は奴隷扱いだった! もう絶対に君の言うことなんて聞かない。今日で君の
これが夫になっていたら、将来領地を任された時に、足を引っ張られまくっていたかもしれない。
思いとどまれて本当に良かった。今となっては、エディとは絶対に
「シンシア様! ご自分の間違いを認めてください! エディ様を解放してあげて! これ以上エディ様を苦しめないで!」
ヒロインは瞳にいっぱい
おっ、これなら回り込んで私を止めるのは無理そうだ。いいぞ。
「いいえ。脅したつもりはありませんし、援助は婚約者の家への善意です。ですが、ドリス伯爵令息がそのように感じていたことは、本日のドリス伯爵家との話し合いで取り上げさせていただきます。十分に検討させていただきますわ。お二人のお気持ちを話してくださって感謝します。話し合いにご出席なさらないのは残念ですが、出欠を決めるのは本人ですから、どうぞご自由になさって。私は強制いたしませんわ」
「ありがとう、エリー! 君のおかげで、僕は解放されるよ! これからは自由だ!」
「エディ様、良かった! 私、エディ様が心配で……っ」
はいはい、お似合いお似合い。二人とも末永くお幸せに。二度とこっちに来ないで。
「話し合いに
二人の世界に
急ぎ帰宅した私は、今日の出来事を両親へ伝える。
ありえないような出来事に何度も事実を聞き返されたが、証人が多くいることもあり、違約金の支払い責任を
話し合いの結果だが、国の調停人を
当初はこちらが違約金を払うつもりでいたのもあって、内々の話し合いだけで終わらせるつもりだったのだが、エディが最後にやらかしてくれたおかげで、とても有利にことを運べた。
違約金もなし、これまで行ってきた援助も一部取り消しとなり、全額ではないが
証人の確認が取れるまではと少しごねられたが、数日も
結局、裁判に持ち込むのを
見事に立場が逆転した。
逆に違約金を
これでルドラン子爵家とドリス伯爵家は赤の他人となれる。
うちに
援助金の全額返還でないだけ、むしろ得をしているのだから、ドリス伯爵家は
さらば、エディ。さらば、ドリス伯爵家。さらば、夕焼け色の髪。
お互いに、二度と関わらない人生を送ろう。
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