34 グリフォンの群れ
「グリフォンの群れ……。数は?」
「少なくとも10だ」
グリフォンとは、猛禽類の頭部と獅子の胴体を合体させたような魔物である。
通常なら第3級から第4級程度、上位の個体なら第2級程度の強さに該当することがある。数頭だけならば、当然この砦の騎士たちだけで十分対処できるだろうが、数十の群れともなればかなり大規模に人を集めなければ厳しいだろう。
「案内をつけてくれるのなら構わない」
「ちょ、ノエ……ノーラ様!? 急がないと――」
「ちょっと巣から追い出すだけだろう? 今日中には終わらせるぞ」
ヘルマンの要望を快諾するノエル。焦ったように説得をするアンヌだったが、結局すぐに諦めたように口を噤んでしまった。
その様子を見たノエルは、十分に成功すると更に確信した。……なぜなら、アンヌが懸念したのは「時間」のただ一点であって、我々が負けることなど到底考えていなさそうだったからだ。彼女の観察眼は優れている。
「でもどうやって追い出すんすか?」
「……作戦がある」
◇
「この先だ。……頼んでおいてなんだが、本当に3人で大丈夫なのか?」
「負けるとでも言いたいのですか?」
「いやそういうわけでは……」
やはりヘルマンに当たりの強いアンヌは放っておいて、ノエルは巣があるという谷を一望した。その姿は見えなかったが、斜面には複数の穴が高所に空いており、おそらくここにグリフォンが潜んでいるのだろう。
「カイン、頼んだぞ」
「了解っす!」
カインは元気よく返事すると、谷底へとゆっくりと降りていく。その場所は地面が岩場になっており、カインはその場所で仁王立ちになり剣を構えた。
ノエルとアンヌは陰に隠れ、見晴らしの良い場所からその勇姿を見届ける。……これで準備は万端だ。
カインの合図を見たノエルは、手の平に魔力をこめる。そして炎魔法を展開すると――空中で爆発させた。
さながら花火が炸裂したような様で、一瞬見惚れそうにもなるが、異常を察知したグリフォンが次々と巣から飛び出してくる。――戦闘開始だ。
「アンヌ、頼むぞ」
「任せてください!」
アンヌは風魔法を使用して、空中を旋回するグリフォンを撃ち落とす役目だ。
崖の中層から上層には、アンヌの魔法によって強風が発生する。ただの強風ではなく、不規則に風向が変化する乱れた気流だ。これにより姿勢の乱れたグリフォン数頭が墜落。難を逃れたグリフォンも、巣へと一時的に避難することを余儀なくされていた。
これにより敵の動ける範囲が大幅に制限された。空中という強烈なアドバンテージを失った彼らに残された手段は、地上にいるカインに肉弾戦を仕掛けることだった。
「来るぞ!」
ノエルが遠くから声を掛ける。カインは一つだけ頷くと、剣を振るい、二~三頭のグリフォンとの近接戦をはじめた。明らかに不利に見えるが……実はこれは囮。カインの身体には防御魔法が張られており、万が一攻撃を受けても弾くことができる。
その間にノエルは、少し離れたところから炎魔法で援護。戦闘中のカインのサポートに加え、アンヌが撃ち漏らしたグリフォンの掃討も担当する。
序盤は順調にグリフォンを無力化し、その数を少しずつ減らしていく。
形勢はこちらが有利かと思えた。だが――、
「団長、キリが無いっす!」
カインの悲鳴にも近い声に、ノエルも若干の焦りを見せる。
……カインの言う通り、グリフォンの数に際限がない。文字通り「10」という数字は最低ラインだったようだ。10では収まらない。30は優に超えているだろう。
しかも知能が高いたグリフォンは、あらゆる魔法攻撃を巣の中でやり過ごし、一瞬の隙をついて一斉に波状攻撃を仕掛けるという方法を取っていた。これでは致命傷を与えることはできず、むしろ数で押されてしまうのはノエルたちの方だ。
「カイン動くな」
カインが一気に囲まれたところで炎魔法を使用するノエル。カインの周囲にはぐるぐると炎の渦ができ、しばらくして外側に弾けた。爆発が発生してグリフォンは後退する。
……だが、形勢を逆転するほどのものではない。もちろん直撃を喰らったグリフォンに大きなダメージは与えられたが、その後方からは増援がどんどんやってくる。精々時間稼ぎにしかならない。
本格的にカインの援護に入ろうとするノエルだったが、それよりも前に、あまりにも沢山の攻撃によりカインがバランスを崩す。
軽く仰け反ったカインは、その隙にグリフォンの鋭い爪により腹を抉られる。防御魔法により外傷はなかったが、カインの身体はその大質量に押し飛ばされた。
「や、ばっ……!」
剣が吹き飛ばされ、カインは地面に倒れ込んでしまった。必死に拾おうともがくカインに、容赦なく別のグリフォンからの追撃が襲いかかる。
……防御魔法により外傷は防がれており、一切ダメージはないが……これはまずい。
ようやくカインの近くへと辿り着いたノエルは、すかさず炎魔法を展開した。
これはメレクの使っていたものの模倣。円柱状に伸展された炎を蛇のように操り、敵に対して猛火を浴びせるのだ。両手から現れた炎柱は、ぶわっと広がり、カインに襲いかかるグリフォンを狙った。
確実に仕留めることができると確信した時――ふと、炎の軌道が意図していたものから変化した。
ノエルが目撃したのは、凄まじいものだった。ノエルが制御していないのにも関わらず、炎は自らの意思を持ってグリフォンに襲いかかった。そしてその炎は横に横に広がっていき、絨毯のように辺り一面を焼き尽くした。
しかしカインの倒れる地点だけは、避けるように炎が円周を形作っており、的確にグリフォンのみを攻撃するものであった。
そして灼熱が辺りを支配したその時、闇が落ちた。
一変する空気。夜の帳が下りたかのように、辺りが真っ暗になったかと思えば、凄まじい魔力の波がグリフォンを襲う。
「これは……なんだ?」
そして、ノエルは驚愕した。
炎が消え去ると、そこにはズタズタになりながらも頭を地面に付け、跪こうとするグリフォンの群れの姿があった。
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