再生

「……メフィ、そこにいるの? というか、君は実在するの?」

「実在? いったい何のこと?

天使は死なないのよ……人がそれを必要とする限り。そしてあなたは悪魔ではなく、天使を求めた。私を天使にしたのはあなただったのよ。

あなたのおかげではっきりとしたわ。人は誰でも一つの宇宙、計画を超える欲望なのね……そして人はみな自分の杖を持っている。私は必要ないわ……ここから先は、あなたが自分で切り開いていくしかないのよ」

「また競争か……」

「競争じゃないのよ……完全な計画は作れないというだけのこと。それができてしまえば世界は結晶化してしまうわ……永遠に美しく、でも永遠に変わらない……不完全だからこそ、新たな欲望が生まれ、新たな世界が生まれる。欠陥があるからこそ、世界はらせん状に伸びていく。この世は多様で、きりがなくて、自由なの……あなたがそう望んだのよ」

メフィの声が消えていくことにもFは気づかなかった。Fはあるまぼろしを見ていたからだ。欠乏を内に抱えながら、その欠乏ゆえにらせん状に成長していく結晶の姿だった。偏光顕微鏡で見た岩石か油膜のように虹色に輝くその結晶の中心からは、分子一個分の段差が作る細い線がゆるやかな六角形を描きながららせん状に広がっていく。らせんの成長は、やがて世界全体を覆うだろう。その欠乏はいつまでも消えることはなく、その成長も停まることはない。それは人の姿でもあり、この世界の姿でもあった……

そのビジョンはあまりにもはっきりと、Fの意識の全体を占めていた。そしてしっかりとFを捕らえていたのでFは目をそらすことも自分や他のことを考えることもできなかった。Fはビジョンだけを一心に見つめた。そして、このビジョンをどうにかして形を与え、この世界の中のどこかに刻み込んで定着させること。頭の中にはただ、そのことしかなかった……


そのゲームはこのようなものになるはずだ。ユーザーは満足を求めて世界をさまようが、決して満たされることがない。メフィが魔法でユーザーの望みを叶えてくれるのだが、そのときに起きることをユーザーは自分でプログラムすることができる。ユーザーは互いの幻想をプログラムし、それらは時には上書きし合いながら新たな状況を生み、世界はらせん状に展開し成長していく……それはユーザー全員の欲望を糧にして発展し、予測不可能な軌跡を描きながら世界を作り上げていく……

らせんをモチーフにしたロゴマークはゲームの仕組みそのものを表している……

その新しいゲームの名は、Fあるいは欲望のありか。


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Fあるいは欲望のありか 荒川 長石 @tmv

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