第七の試み

「そうだな。ハーレムなんて空しいだけだということがよーく分かったし。やっぱあれかな。遊園地かな」

「……」

「まあ聞けよ。ただの遊園地じゃないんだ。都市の真ん中にあって、外見は超高層ビルなんだけど、中は富士の樹海のような鬱蒼としたジャングルで、それが三次元迷路になってるんだ。あちこちに洞窟があって蚕の卵を保存する氷室になってるんだけど、そんな洞窟の奥の突き当りのドアを開けると、そこは見渡す限りタクラカマン的な砂漠さ。重い砂を支えるための特殊な鉄骨と、全方向プロジェクトマッピングと、五十度の熱風を吹き出せる特殊な空調が必要だね。それで、砂漠をラクダに乗って行くと行く手に巨大な崖が現れて、そこに石仏が彫ってある。石仏の胴体の中の狭い階段を昇っていくと、ちょうど仏の目の所に展望台があって、そこから砂漠を見渡せるんだ。すると、誰かがバルスを唱える。大地震が起こって地面がバラバラに分かれて隙間から砂がサーッと流れ落ちていくと同時にどっかから大量の水が流れ込んできて、砂漠は一瞬で海になる。それで、海賊船の甲板でカモメと一緒に日向ぼっこしてると、島影からスペインのガレオン船がヌッと現れて大砲の撃ち合いになる。と同時に船の左右の海面に鳴門みたいな大渦ができて、船の前後には大ダコが現れて、そのうちに船はバラバラに砕かれて俺たちは海に投げ出されて大渦に飲み込まれる。気づくと俺は海底都市のベッドに寝ていて……」

「あなたのようなマッチョなロマンチストでも結局編集された現実が好きなのね」

「まあね。でもそれを言ったら、料理だって、音楽だって編集された現実だろ? 唯一で公式の現実なんてものはないのさ。あると勘違いしている人はたくさんいるけどね。知識や辞書を統一したり、巨大な図書館を建てたり、学校で子供にものの考え方とやらを教えたりしてさ」

「あなたがしたいことは遊園地を作ることだけなの?」

「まさか。遊園地は手始めさ。遊園地ができたら、その世界を派生させていく。まずは都市の建設かな。世界で最初の無計画都市、というか非計画都市を作る。隙間だらけ、穴ぼこだらけでやたら高低差があって意味不明な記念碑とか塔とか広場とかがたくさんあって、しかも材料は使いまわしができて建て直しや微調整が効いて住民の望みにぴったりと合わせていくことができるようなさ。それから対馬大橋の建設。ユーラシア大陸横断リニア。海上都市。海中都市。月面都市」

「土木工事ばかりね」

「それに火星探検。赤道の近くの海面を人工光合成パネルで覆ってギ酸と水素を作る。トカマク炉を小型化して車や飛行機はデロリアンみたいに空中のホコリを核融合したエネルギーで動く。今までの発電所は火力も原子力も水力もすべて廃止」

「あなた、根はテクノクラートなのね」

「まあね。昔は理系だったって言ったろ?」

「いいわ。全部やってあげるわ」

メフィは軽やかにその杖を一振りした。

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