第六の試み

「……やった?」

「……やったわ」

「何も聞こえてこないぞ。歓声も、万歳も、お祭りの囃子も」

「そうね」

「でも、何かこう小さく、チクタクと時を刻むような音だけが聞こえてくるのは気のせいかな?」

「いいえ。私にも聞こえるわ」

「いったい何が起きたんだい、メフィ?」

「自分で見てきて御覧なさいよ」

「じゃあグライダー出して」


Fはグライダーに乗って地球のあちこちを見て回る。戦争はもうない。飢餓も、貧困も解決した。人類は平和に暮らしている。炭素税を導入し、法人税の下限を定め、核兵器は全廃してしまった。国境は開かれ、誰もがどこへでも自由に移住して仕事につける。各国が協力して火星へ人類を送り込む……。

二人で川沿いの街を歩いていると、メフィが少し足を引きずるのにFは気づく。

「あんた、足が悪いの?」

「ええ。神様にやられたの」

「野郎、酷いことしやがる。一体何をしたの?」

「それが分からないのよ。私はただ、自分がいいと思う世界になるよう働いていただけなのに」

「そのいいと思う何かが神の怒りに触れたんだな。でも立ち直った?」

「今でも立ち直りの途中よ。私は善いことをしたいの」

「さっき火の玉とか降らせたくせに」

「あなたが望んだからよ……」とメフィは恥ずかしそうに言った。「ねえ、何か楽しいことしましょうよ」

「それをさっきから考えてるんじゃ……」

「あなたはちょっと真面目すぎよ。もっと頭を柔らかくしなきゃ。何も考えずにパーッと楽しいことをしましょ」

「うん。でも金もないしな」

「じゃあお金から作りましょうよ」

「偽札でも作るの? 善をなしたいとか言ってた人が?」

「仮想通貨っていう手もあるわ」

「そうか。それ面白そうじゃん。仮想通貨を作るって、どうすればいいんだろう」

「まずは名前を決めなきゃね」

「そうだな。メフィストフェリウムってのはどう?あんたを記念して」

「いいわ。担保はこれよ」

「木の葉? 狸かよ」

「あなたが森を立ち入り禁止にしたからバレっこないわ」

「え? そんなことしたっけ?」

「木の葉教を忘れたの? 今じゃ木の葉教が支援する紅葉党が与党なのよ」

「ゲッ。この世界マジ狂ってる」

「みんながそう望んだのよ」

「俺はちっともそんなことを望んだ覚えはないんだけどな」

「まあいいじゃないそんなことはどうだって。あなたは自分のしたいことをすればいいのよ。さ、お金はできたわ。何をするの?」

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